2016年3月の札幌でのアレクサンダーテクニークとボディマッピングのグループレッスンで、ピアノ奏者の方とレッスンしました。
課題にひとつに、大きな音で演奏するのが苦手だというお話がありました。
ピアノを演奏する方が、大きな音で演奏しようとするときに、「よかれ」と思ってやりがちなことは、
- 速さを出すために、鍵盤に指をたたきつける。
- 重さを掛けるために、”脱力”しようとして、肩・脇の下周辺から、腕全体を押し下げる。
- 重さを掛けるために、からだを前傾させる。
「鍵盤に指をたたきつける」のではなぜだめか?
運動エネルギーは左の数式で表すことができます。
すなわち、重さmに比例し、速さvの2乗に比例します。
つまり。重さmを増すよりも、速さvを増やす方が効率がよいです。
ですので、理論的には、鍵盤に指を叩きつけるのは一見正しいように見えます。しかし、うまくいきません。
なぜならば、
-
たいていの方は、掌側から指に向かう虫様筋という筋肉に負荷をかけすぎて、痛めてしまうからです。
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また多くの方は、打鍵の際に、指をたたきつようとすると、打鍵の際に二の腕を押し下げてしまうからです。
「重さを掛けようとして”脱力”しようとして、肩・脇の下周辺から、腕全体を押し下げる」ではなぜだめか
しなりを使った奏法ができなくなるから
名著『ピアニストの脳を科学する』(古屋晋一著 春秋社)に書いてあるように、プロのピアニストの演奏の際には、打鍵の際に二の腕が上にあがります。しかし、それとは正反対のことになるから、いけません。。
しなりを使った奏法と古屋先生は呼んでいらっしゃいますが、詳細は古屋先生のご本をご覧になるか、『ピアノのしなりを使った奏法』をご覧ください。
重さはそんなに増えない
肩や脇の下を押し下げると、鍵盤にかかる重さが増えるような錯覚を覚えますが、実際にはそれほど増えません。
なぜならば、脇の下や肩が極端に押し下げるので、胸から二の腕に向かう大胸筋と、背中側から二の腕に向かう広背筋が同時に緊張するからです。
疲労したり傷めやすくなったりするから
繰り返しになりますが、腕から二の腕腕に向かう大胸筋と、背中側から二の腕に向かう広背筋が同時に緊張して、胸や肩甲骨周辺や肘周辺が疲れたり、傷めやすくなったりします。
そして、大きな音で弾くフレーズが長く続けば続くほど、肉体的なダメージは大きくなります。
「重さを掛けようとして、からだを前傾させる」ではなぜだめか?
たしかに1度切り、大きな音を出すでしたら、可能です。しかし、大きな音の連打が続くと、あとになればなるほど、大きな音を出すのが困難になります。
そして、そのようにして出た大きな音は、響きのない音で、広い会場だと一番後ろの席まで存外聞こえません。
また背中が筋肉が緊張しすぎて、腰痛の原因になります(『病の起源1』2009年2月 NHK出版 115頁参照)。
詳細は『ピアノを極端な前傾姿勢で弾いてはいけない9つの理由』を参照してください。
ピアノで大きな音を出すためにどうしたらよいのか?
どのようにすれば、ピアノで大きな音をだすことができるのかについて、あやふやな方が多いですし、はっきり書いてある本はありません※。
※2019年2月に刊行された拙著『実力が120%発揮できる!ピアノがうまくなる からだ作りワークブック』(ヤマハミュージックメディア)にはじめて掲載された。
どのようにするのかというと、
- 全身を伸びやかにして(具体的にはレッスンで行います)、
- 打鍵する瞬間に、頭部も、脇の下も、胴体も押し下げない
- 打鍵する瞬間に、座骨方向を思う。座骨方向は真下ではなく、斜め後ろ下になる
- 背中側の広背筋などが緊張していない場合には、身体のなかに”力の通り道”が開くので、このとき胴体から腕が鞭のような動きをして、容易に加速する。
- そして、鍵盤に触れた瞬間に、二の腕(上腕)が結果的にわずかに屈曲方向(鍵盤から遠ざかる方向)に動く
最後の部分の「鍵盤に触れた瞬間に、二の腕(上腕)が結果的にわずかに屈曲方向(鍵盤から遠ざかる方向)に動く」は、分かりにくいかもしれません。
しかし、それこそが名著『ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム』春秋社のなかで、古屋晋一先生がおっしゃっている、しなりを使った奏法になります。
また異分野になりますが、優れたドラム奏法のフレディ・グルーバー・システム(日本では、モーラー奏法と混同されている)とも似ています。
そして、この技巧を身に着ける準備のために、バランスボールに乗って、跳ねるワークをします。
その際には、次の4点が重要になります。
- 全身を伸びやかにする
- 頭や脇の下や肩を押し下げない
- 胴体の奥行きの方向
- 坐骨の方向
大きな音で演奏するときに身体全体に”力の通り道”を開くコツを会得するための第1歩です。そのコツを会得すると腕や肩や他の「からだ」の部分に負担なく演奏できるようになります。
この日の札幌でのアレクサンダーテクニークとボディマッピングのレッスンで、全体で行ったことやまとめは、下記のリンク先へ
お悩みのあるピアノ奏者向けのアレクサンダーテクニークとボディマッピングのレッスンの詳細は下記リンク先へ。
ピアニストの方に-演奏中の腕・肩・首・腰への負担を減らしたい方、運指を改善されたい方、オクターブの連打が苦手な方、重量奏法・重力奏法を身につけたい方
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