古くからピアノを演奏するときに、どこの関節が動くのか、あるいはどこの関節を動かすべきなのかということについて、議論がありました。
トバイアス・マティの説
例えば著名なのはトバイアス・マティという方の説です。

トバイアス・マティのピアノの鍵盤の打鍵に関する説を図解した
打鍵の際に動くのは
肩関節
肘関節
手関節(手首の関節)
指の関節
図で指し示すと、左図のようになります。
この考え方は現代のピアノの本やピアノの演奏指導者に、直接あるいは間接的に与えている影響がとても大きいです。例えば、『ピアノ・テクニックの科学 プロフェッサー・ヤンケのピアノ・メソード 』 (2016/9/20 アルテスパブリッシング アンスガー・ヤンケ 著 晴美・ヤンケ 著 アドリアン・ヤンケ 訳)にも、そのような記述があります。
しかし、今日ではこのような古典的な考え方は誤りであることが分かっています(例えそうであっても、『ピアノ・テクニックの科学 プロフェッサー・ヤンケのピアノ・メソード 』が名著であることに疑いはありません)。
しなりを使った奏法
上智大学の古屋晋一先生の名著『ピアニストの脳を科学する』に、複数のプロのピアニストとアマチュアのピアノ愛好家の打鍵を、高速度カメラで撮影して分析して得られて運動の軌跡が掲載されています。
驚いたことに上記にマティさんの説通りに弾いていたのはアマチュアのピアノ愛好家でした。
プロのピアニストたちの動きはまったく異なっていました。

しなりを使った打鍵(GIF動画)
打鍵の際に動くのは
肩関節
肘関節
指の関節(2の指から5の指の先端から3番目の関節&1の指のCM関節)
指先が鍵盤に触れてから、鍵盤を下に押し下げるときに、肩関節からの二の腕(上腕)の動きの向きが反対方向に変わります。言葉で説明しても、わかりにくいと思いますので、GIF動画で確認ください。
GIF動画をご覧になっても、わかり肉かもしれません。
写真はこちらです。

しなりを使った奏法
指先が鍵盤に触れてから、鍵盤を下に押し下げるときに、肩関節からの二の腕(上腕)の動きが前に伸びてゆきます。結果的に「指が立ってゆく動き」(『ピアニストの脳を科学する』)になります。
もちろん音形によっては、この動きが小さくなって目立たなくなったり、大きくなったりします。
しなりを使った奏法の利点
このようなしなりを使った奏法の利点は3つあります。
-
- 同じ力を鍵盤に加えるときに、指への負荷(負担)を減らすことができる
- 鍵盤から指に戻ってくる反力(反作用の力)を減らすことができる
- ピアノのアクション構造に関節技をかけなくて済む(→雑音が減る)
しなりを使ったピアノの奏法は、今この瞬間に必要な方法です(アレクサンダーテクニーク用語では、この今この瞬間に必要な方法をミーンズ・ウェアバイと言います)。
最初の2つは『ピアニストの脳を科学する』に記載されていますが、物理的な理由です。

原図 古屋晋一著『ピアニストの脳を科学する』を元に作成

原図 古屋晋一著『ピアニストの脳を科学する』を元に作成
3番目「ピアノのアクション構造に関節技を掛けなくて済む」の理由は次の通りです。
鍵盤を横から見た模式図です。

鍵盤を横から見た模式図
ご覧の通り、打鍵をする前に、鍵盤はじゃっかん手元側が上がっています。
したがって、鍵盤に加わるべき力の向きは
打鍵の瞬間は、じゃっかん斜め後ろ下方向

鍵盤と打鍵の力の方向(GIF動画)
そして、真下へ
そして、じゃっかん斜め前方方向に
変化します。
ところがマティさんの説に従うと、指先が鍵盤に接触した瞬間はOKですが、鍵盤を、押し下げるときに力の向きが斜め前方後ろに、加わり続けるので、ピアノにアクション構造に関節技を掛けることになるのです。
実際に打鍵の瞬間に、何が起きているのか、ヤマハ掛川工場で撮影した動画をご覧ください。
打鍵の際に指先が検番に触れた時点から二の腕(上腕)の方向が切り替わるためには、二の腕を下ろす(上腕を伸展する)筋肉を、必要な動きとは無関係に収縮させること(くせ)を防ぐ必要があります。
上腕を下ろす(伸展させる)筋肉のうちの主働筋
- 広背筋
- 大円筋
- 三角筋(後部)
上腕を下ろす(伸展させる)筋肉のうちの協働筋
- 上腕三頭筋(長頭)
そのためにアレクサンダーテクニークの基本的なディレクションが役立ちます。
詳細は煩雑になるので、ここでは詳細には触れませんが、例えば
鍵盤に指先が向かうとき、背中側を潰しがちです。そのようになると、胴体の構造を背骨と横隔膜で支えきれなくなります。そして、支えきれなくなった重さを背中側の筋肉を収縮させて、つまり固めて支える状況になります。なぜならば、背中側を押し下げると、もれなく広背筋が収縮するからです。
その結果、
- 二の腕の動きにブレーキがかかりますし、
- 腕を胴体の前方に保持するのが困難になります。と申しますのも、腕を下ろす筋肉が緊張しているので、腕を持ち上げる仕事をする筋肉がいっそう緊張し、同時収縮(共収縮)が起こりますので。
アレクサンダーテクニークのレッスンを受けている方には、全身を押し下げない(押しつぶさない)ために行うディレクションは、なじみのなるものでしょう。しかしながら、このしなりを使った奏法を行うときには、本当に押し下げ(くせ)が起こりやすいので、注意が必要です。
詳細はレッスンで学んでいただければと存じます。
参考文献
『ピアニストの脳を科学する』古屋晋一 著 春秋社
おもにしなりを使った奏法について
『ピアノを弾く手 ピアニストの手の障害から現代奏法まで』酒井 直隆 著 音楽之友社
トバイアス・マティの考え方について
『ピアノ・テクニックの科学』アンスガー・ヤンケ、晴美・ヤンケ著 アルテスパブリッシング
『シャンドール ピアノ教本』ジョルジ・サンドール 著 春秋社
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