ピアノ奏者はどういうときに手首に力が入ったり、手首が固くなるのか?
アレクサンダーテクニークのレッスンにいらっしゃる、ピアノを演奏する方で、特にオクターブや和音を弾くときに、手首に力が入ったり、手首が固くなったりする方がいらっしゃいます。
これは、いちアレクサンダーテクニーク教師である私が、いい加減なことを申し上げているわけではなくて、世界的に著名なピアニストの杉谷昭子先生が「オクターブは手を大きく広げるため、手首に力が入りやすい」(『コンパクト・ハノン』杉谷昭子・駒澤純 著 ショパン 2007年8月 2ページ)と書いていらっしゃいます。
アレクサンダーテクニーク教師が考える、オクターブや和音を弾くときに、手首に力が入ったり、手首が固くなったりする理由
では、オクターブや和音を弾くときに、手首に力が入ったり、手首が固くなったりするのはなぜでしょうか? アレクサンダーテクニーク教師かわかみ ひろひこ と、いっしょに理由を考えていきましょう。
1の指(拇指)の動きが大きく関わっています。
オクターブも和音も、1の指で打鍵します。1の指(拇指)で打鍵するとき、拇指は掌側外転します。
そして、特にオクターブは、1の指(拇指)を含むすべての指を大きく開きます。
1の指を大きく開くことを拇指の外転と言いますが、拇指の外転には先ほど申し上げた掌側外転と、橈側外転があります。この2つは本来まったく別の動きで、働く筋肉が異なりますが、残念ながら両者を混同するピアノ奏者の方はたいへん多いです。
掌側外転と橈側外転の具体的な動きは、GIF動画で後ほど解説します。
アレクサンダーテクニーク教師が解説する掌側外転
拇指の掌側外転について、アレクサンダーテクニーク教師かわかみひろひこが解説します。
掌側外転は、長母指外転筋、短母指外転筋、母指対立筋が収縮して実行されます。
短母指外転筋、母指対立筋とも、手根の掌側から中手骨(指の根元にある手の甲・掌の5本の骨)の掌側に付着します。
アレクサンダーテクニーク教師が解説する橈側外転
拇指の橈側外転について、アレクサンダーテクニーク教師かわかみひろひこが解説します。
橈側外転は、短母指伸筋、長母指伸筋、長母指外転筋が収縮して実行されます。いずれも前腕の背側から手の甲を経て、掌の背側の中手骨や指の骨に付着します。
お分かりになったでしょうか? 2つの動きで共通するのは長母指外転筋だけです。
そして、長母指伸筋・短母指伸筋は、手関節の橈屈の協働筋として仕事をします。
手関節の橈屈の動きをアレクサンダーテクニーク教師かわかみひろひこが解説します。
長母指伸筋は手関節の背屈あるいは伸展という動きの協働筋として仕事をします。
手関節の背屈あるいは伸展をアレクサンダーテクニーク教師かわかみひろひこが解説します。
長拇指外転筋は掌屈の協働筋として働きます。
手関節の掌屈をアレクサンダーテクニーク教師かわかみひろひこが解説します。
アレクサンダーテクニーク教師が解説する、オクターブや和音を弾くときに起きている癖(くせ)
ここまでアレクサンダ-テクニーク教師かわかみひろひこの長い解説をお読みくださり、ありがとうございます。
賢明な方はお気づきでしょう。
オクターブや和音を弾くときに、手首が固くなる方は、親指で打鍵するときに、あるいは手を大きく開くときに短母指伸筋、長母指伸筋を緊張(収縮)させ、必要以上に長拇指外転筋を収縮させているのです。これは癖(くせ)です。
短母指伸筋、長母指伸筋が緊張すると、手首の関節(手関節)は、短母指伸筋、長母指伸筋の働きで、少し背屈しそうになり、そして撓屈しそうになります。
しかし、演奏するために、前腕(肘から手関節まで)と掌は、手首を極端に曲げることのないニュートラルなポジションを保持する必要(手の甲が若干上がるのはOK)があります。
したがって、このような手関節の背屈と撓屈を担当する筋肉が緊張している状態では、手関節の背屈と撓屈とを防ぐために、手関節を尺屈させる筋肉と、掌屈させる筋肉が収縮する必要があります。
手関節の尺屈と掌屈について、アレクサンダーテクニーク教師かわかみひろひこが解説します。
つまり手関節を挟んで反対側にあり、反対のお仕事をする複数の筋肉同士が共収縮あるいは同時収縮するので、手首が固くなるのです。あるいは手首に力が入ります。
そして、この共収縮こそが、アレクサンダーテクニーク教師が癖(くせ)や押し下げと呼んでいるものの正体です。
関節名 | 運動 | 主働筋 | 協働筋 |
手根手関節 | 尺屈 | 尺側手根伸筋 尺側手根屈筋 |
小指伸筋 |
背屈 | 長橈側手根伸筋 短橈側手根伸筋 尺側手根伸筋 |
指伸筋 示指伸筋 浅指伸筋 小指伸筋 長母指伸筋 |
そして、そのように手首が固くなったピアノ奏者は、1の指や4の指や5の指の打鍵の動き、つまり1の指(拇指)掌側外転や4の指(薬指)の屈曲や5の指(小指)の屈曲がしにくくなるので、打鍵のと肘関節を伸展させて、手首や掌ごと下に押し下げるという一時の間に合わせ的な対応をします。これをリハビリ用語では代償運動といいます。
それでも、たしかに演奏できますが、次の5つの欠点が生まれます。
- 指や手や肘の周辺の筋肉に、過剰な負担がかかります。
- 音の大きさや音の質のコントロールが難しくなります。
- 手の上下動が大きいので(”支え“がないので)、速いパッセージ演奏しにくくなります。
- 打鍵のときに生じる遠心力によって、二の腕(上腕が)が前傾する”しなり奏法”(『ピアニストの脳を科学する』春秋社 古屋晋一著を参照ください)ができなくなります
- 腕から指先を通って、鍵盤までの力の伝達が上手く行かなくなります。
アレクサンダーテクニーク教師がお勧めする、オクターブや和音を弾くときに必要なこと
あなたの内面から生じる音楽を表現するために、どうなるのが適切なのか、お分かりでしょう。
あなたに替わって、アレクサンダーテクニーク教師かわかみひろひこが申し上げます。
オクターブや和音で、(i)指を開くときに、あるいは(ii)打鍵するときに、前腕を起始とし、手首の関節(手関節)をまたいで、手の甲側の骨に付着したり、手の甲側をしたりする3つの筋肉短母指伸筋、長拇指伸筋、長拇指外転筋が緊張(収縮)しないようにすればよいのです。
そして、オクターブや和音を演奏するときに、短母指外転筋、母指対立筋などの手内在筋が緊張(収縮)すればよいのです。
以上がアレクサンダーテクニーク教師かわかみひろひこが導き出した結論です。
どうすればそれが可能なのか?
楽器の先生がよくレッスンでご指導される、手首をぶらぶら振る体操(かつて東京藝術大学で教鞭をとられた野口三千三先生の影響)をしても、解決しません。そもそも手首を振る動きは、演奏中には絶対にできない動きです。
アレクサンダーテクニークのレッスンのすすめ
答えは、私かわかみ ひろひこ のアレクサンダーテクニークのレッスンでお伝えします。
もし私かわかみ ひろひこ のアレクサンダーテクニークのレッスンにいらっしゃることができないのでしたら、拙著『実力が120%発揮できる!ピアノがうまくなる 体作りワークブック』2019年(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)をご参照ください。
この本は、ピアノを演奏しない方にも役立つ、アレクサンダーテクニークのワークブックです。
この本にも、書いた時点では最善の解決方法について、アレクサンダーテクニークの原理に基づいて、具体的に書きました。
ただし本に掲載した練習方法は、最新情報ではありません。私のアレクサンダーテクニークのレッスンの内容は、日々工夫し、更新していますので。
レッスンコース
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