骨盤の向きに関する勘違いを生んだ本
この本はたまに洋書屋で今でも見かける、18世紀に活躍したAlbinus(アルビヌス)という医師で解剖学者の方が出版した銅版画集”Albinus on Anatomy“で、現在の解剖学の本にも大きな影響を与えています。
アルビヌスについては、ウィキペディアをご参照ください。
本の表紙の写真をアップしても、版権や著作権を侵害しませんので、掲載します。
1990年代にアメリカ人のアレクサンダーテクニーク教師からレッスンをご受講されたご経験のある方や、彼らからアレクサンダーテクニークのレッスンをご受講された方たちは、こちらの本をご覧になったことがあるかもしれません。
ちなみに彼らはこの本を「アルバイナス」と呼びます。
ご覧の通り、美しい解剖図です。
しかし。。。賢明なみなさんはもうお気づきでしょう。そうです。骨盤の向きがおかしいのです。骨盤だけ、かなり後ろに倒れています。
2つの図を見比べていただいたら、お分かりになるでしょうか?
後代の解剖図に継承される誤解
実はこの”Albinus on Anatomy“のこの骨盤のおかしいアングルを『動きの解剖学』の旧版が踏襲してしまいました。
と言うよりも、より正確に言えば、”Albinus on Anatomy“は今日の解剖図に多大な影響を与えており、今日の多くの解剖図に影響を与えています。
『動きの解剖学』(旧版)が骨盤のおかしいアングルを継承し、『音楽家ならだれでも知っておきたいからだのこと アレクサンダーテクニークとボディマッピング』が継承
『動きの解剖学』の旧版の図の多くを参照したと考えられる『音楽家ならだれでも知っておきたいからだのこと アレクサンダーテクニークとボディマッピング』(誠信書房)も、そのまちがいを踏襲しました。
ちなみにこの本の副題には上記の通りアレクサンダーテクニークと書いてありますが、実際にはアレクサンダーテクニークについては触れておらず。ボディマッピングに関する本です。
さて、どうして参照したと容易に想像がつくかというと、『動きの解剖学』旧版に掲載されている複数の図解と酷似した図解が、『音楽家ならだれでも知っておきたいからだのこと』に複数掲載されているからです。
図解を比較することは容易にできますが、WEBでそれを行うと、著作権法違反になるので、致しません。ご興味ある方はご自分で比較してください。
『音楽家ならだれでも知っておきたいからだのこと アレクサンダーテクニークとボディマッピング』の関連本の多くも、骨盤の誤ったアングルを継承
そして次の関連本もその誤りを踏襲しています。
- 『音楽家ならだれでも知っておきたい呼吸のこと』
- 『ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』
- 『声楽家ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』
- その他
しかし、関連本の『フルート奏者ならだれでも知っておきたいからだのこと』(誠信書房)の日本語版には、正しい図が掲載されています。
坐骨は斜め後ろ下を向いているのがご理解いただけるでしょうか?
実はこの骨盤の向きというのが、アレクサンダーテクニークでいうところの背中の広さの鍵の1つになりますし、具体的な活動で言うと、ドラムのモーラー奏法やピアノのしなりを使った奏法の鍵の1つになります。
また楽に速く歩けたり、階段を上るときに楽になったり、転びにくくなったり、ぽっこりお腹が目立たなくなる鍵になります。
ずいぶん前にメールと封書のお手紙で、この件を含めてバーバラ・コナブルさんにご指摘申し上げたことがございましたが(2004年)、お返事がなく、その後彼女は引退されましたので、修正を求める相手もいなくなりました。
勉強した人が、間違えるということを避けたいので、このたび誤りをみなさんにシェアします。
今までは私のレッスンをご受講くださった方には申し上げてまいりましたが、そうやって情報の公開範囲を限定するのもどうかなと思い始めました。
不思議なのは、気づいた方が多かったろうに、私以外に指摘しているアレクサンダーテクニーク教師をひとり以外は見かけません(そのおひとりというのは、『フルート奏者ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』の著者のアレクサンダーテクニーク教師で、ボディマッピング教師のリー・ピアソンさんで、日本語版の翻訳者の棚橋和子さんに伺ったところ、日本版を出版する際に、図解の差し替えが原著者から届いたそうです)。私が存じ上げないだけかもしれませんが、とても奇妙なことだと思ってきました。
でも、これでちょっとすっきりしました。
本を読むときには、健全な疑いを持ちましょう。
ちなみにFacebookのアレクサンダーテクニークのグループで、このブログを紹介したところ、1990年代にアレクサンダーテクニーク教師の訓練を終えた方から反論があり、私の主張は徹底的に攻撃され、人格も非難されました。複数の解剖図を比較すれば、この件に関する私の主張が誤っていないことはすぐに分かることです。
当方からは図書館などによく置いてある解剖図を参考資料として挙げ、そちらをご覧になるように何度もお勧めしたのに、ちっとも見てくれませんでした。時間を無駄にしました。
ほぼ1年後その人物はなぜか急に前言を覆し、私の主張を認めました。
骨盤の傾きに関するよくある勘違いを指摘した日本人アレクサンダーテクニーク教師がいました
2020年3月6日追記
そういえば、日本人で最初に日本で教え始められたアレクサンダーテクニーク教師の芳野香先生が、1998年に、
「ルネサンス期に書かれた解剖図はちょっとおかしいものがある。骨盤の向きとか。。。」
とおっしゃっていたことをおっしゃっていました。
まだ『音楽家ならだれでも知っておきたいからだのこと』が発刊される前です。
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