更新日 2015年4月6日

MC900292106アレクサンダーテクニークを人に教えるというお仕事がら、演奏演劇ダンス本番で、あがったり(あがり症になったり)、過度な緊張をしたりということについて、どのようにしたら解決できるのかということについて、ご質問をいただくことがあります。

 

英語では、このような”あがり症“や”あがり”や“緊張“をstage flghtステージ・フライトステージフライト)と呼びます。

 

舞台の本番とは無縁な方たちであっても、
お仕事で営業先でプレゼンテーションをすることになったり、
職場でプレゼンテーションをしたり、
あるいはお子さんたちのお母様たち(ママ友たち)との初対面で自己紹介をするときに、
とても上がってしまった、緊張してしまったという方たちは多かろうと思います。

 

そして、そのような緊張・上がりの際にいったいなにが起きているのかについては、まともに書かれた本はないように思います(あれば、教えてほしいです)。

 

実は、そのことに関する私の質問について、私のアレクサンダー・テクニークの先生たちのいちばんまともな答えは、

「そういうこともあるよね」という、ウィリアム・コナブル博士の答えでした。もちろんそれで終わらず、ワークがそれに続き、そして解決に向かうのです。数年たって、後から思えば、いつの間にか解決したね、という具合です。

 

それは、レッスンを続けることができた生徒さんにとっては、そのような回想で終わって、「めでたし、めでたし」となるのでしょう、しかし、ロードマップが示されないままに、どこに行くのか分からないままレッスンを受け続けることは、なかなか大変なことです。

私自身、生徒の立場であったときに、それは忍耐がいることでした。

 

アレクサンダー・テクニークでは一般的に、そういうときに、「今ここにいる」ことを教師から諭されます。まるで、スターウォーズジェダイの訓練のようです。アレクサンダー・テクニークを教える立場のひとりとして、「それは大切なことだけれど、それだけはどうかな?」と思っていました。

 

また、別の私の先生は、この方はアメリカ合衆国の西海岸の大学の演劇学部の準教授ですが、「舞台の本番で緊張するのは、大きな仕事をするために、私たち自身が準備しているのだから、慌てなければ大丈夫」っておっしゃっていました。

 

この考え方は、彼女から学んで日本で教えているひとりのアレクサンダー・テクニーク教師によって、広く紹介されたので、アレクサンダー・テクニーク関連のホームページをネット・サーフィンしている方たちはご覧になったことがあるでしょう。

 

同じようなことは、かつて東京藝術大学の大学院で教えていらした野口三千三先生も、「原初生命体としての人間」(岩波書店)のなかでおっしゃっています。

 

もちろん、それで解決する方もいらっしゃるのでしょう。「本番では、緊張はするけれど、必ずしも”あがる“とは限らない」とおっしゃる方たちは、この方法で解決できる可能性が高いです。

けれど、そのように思っても、なかなか解決できない方たちがいらして(状態がもっと重い方たち)、そういう方たちは、「私って、やはりだめなんだ」と思ってしまうかもしれない。

 

かく申す私自身は、上記の指導方法がじゅうぶんではないということを承知しておりましたが、それに代わる考え方を提示することが長いあいだできませんでした。

しかしながら、近年の科学の発展に伴い、新しい学説出てきたことを知ることによって、そもそもステージ・フライトの際になにが起きているのかということについて、ようやく体系的に説明できるようになってきました(まだ、ほんの始まりにすぎません)。

まず、生徒さんのステージ・フライトをレッスンで扱うときに、気をつけるべきことがあります。それは、おひとりおひとりによって、その意味することが違うことがあるということです。

 

人によっては、何が起こっているのか分からないけれど、実力が発揮できない。

 

人によっては、真っ白になり、なにをしているのか分からなくなり、そして実際に録音や録画を確認したら、うまくいっていない。

 

人によっては、頭はとても冷静に、(うまくいっていない)状況を見ているが、「からだ」が思うように動かない。

 

人によっては、本番では体温が下がる。

 

人によっては、たくなる。

 

人によっては、心臓がバクバクする。

 

人によっては、息が吐けない(さらに程度が甚だしいと過呼吸になる)。

 

人によっては、息が入らない。

 

人によっては、足がふわふわして、地面着地していないような違和感がある。

 

人によっては、エネルギーに上がってしまって、降りてこない感じ。

 

人によっては、本番前にお腹を壊す。

 

人によっては、本番前に便秘になる。

 

人によっては、本番後に必ずお腹をお壊す。

 

まず、ステージ・フライトに陥りやすいご本人とそして指導者の方たちがそういう具体的な状況を認識し、共有する必要があります。

そして、もう少し大きな生理学的な枠組みの中で、何が起きているのか理解する必要があります。

 

生理学的には、私たちに自律神経が備わっています。

交感神経副交感神経があって、交感神経は「逃げるか戦うか」(闘争・逃走反応)という状況で優位になり、副交感神経は消化吸収排泄休息睡眠を司るという、中学・高校の生物の時間で学んだアレです。

 

しかし、この説明に納得いきますか? 私は納得いきませんでした。

スポーツも種目によっては、たしかに闘争や逃走に近いものがあるのかもしれません。しかし、演奏したり、踊ったり、演技したり、あるいはプレゼンテーションしたり、ずいぶん「逃げるか、戦うか」という状況とは異なるように思うのは私だけでしょうか?

これに対して、通説は交感神経と副交感神経が単独に働くのではなく、両方が働くことによって、そのような活動に対応していると説明しているようですが、ちょっと苦しいですね。

 

実は従来の通説に対して、スティーブン・ポージェスによって、多重迷走神経理論ポリ・ヴァーガル理論)が提唱され、注目を集めています。

 

ポージェスは、従来副交感神経として分類されていた神経を腹側迷走神経複合体、背側迷走神経複合体とその他に分け、腹側迷走神経複合体、交感神経背側迷走神経複合体の機能について、次のように説明します。

腹側迷走神経 もっとも新しい。哺乳類が発達させた、 社会性。定位反応
交感神経 2番目位に古い 逃げるか、戦うか(逃走・闘争)
背側迷走神経 もっとも古い 消化・吸収・排泄・睡眠・深い瞑想・凍りつき

私たち哺乳理は進化の過程で、れをつくり、他者共存することによって、生き残るという戦略を取りました。

社会性を担う神経(服側迷走神経)を発達させることによって、
そしてこの社会性を担う神経が、交感神経が扱うことのできる大きなエネルギーと同等の大きなエネルギーを扱えるようになることによって、
生存をより優位にしたのです。

 

ある状況に接したときに、私たちはまず社会性を担う神経システムである、腹側迷走神経が優位になり、対応しようとします。

 

しかし、その状況が社会性を発揮するのにふさわしくないとき(例えば、極端な例になりますが、いきなりナイフを持った人が突進してきたとき)、あるいはなんらかの理由により、社会性を担う神経システムが働かない場合には、交感神経が優位になり、状況に対応しようとします。逃げるか、戦うかです。

 

そして、その状況が社会性を発揮するのも、逃げるか戦うかを行うこともふさわしくない場合には(例えば、眠るとき、食事を取るとき、深い瞑想に入るとき)、背側迷走神経が優位になります。

あるいは、状況に対応するときに、なんらかの原因によって、腹側迷走神経や交感神経が働くことができなしと、背側迷走神経が優位になり、凍りつきます。

 

凍りつきは、草食動物が捕食動物に捕まったときに起こります。

草食動物が草を食んでいるとき、同時に周囲にも注意を払っています(定位反応が働いている)。そして、そこに獲物を捕るためにメスのライオン現れます。狩りをするときに捕食動物の目は、凝視するようになり、それに反応して、草食動物たちはいっせいにばらばらに逃げ始めます。交感神経が極限まで高まって、逃げるのです。

そして、運悪く(ライオンにとっては運のよいことに)1匹の草食動物が捕まってしまいます。

 

そのとき、背側迷走神経が優位になり、凍りつき(あたかも肉体と中身が分離するような状態)が起こります。

凍りつきが起こる利点は、

「こいつ、すぐぐったりしたから、悪い病気でも持っているのかもしれない」と捕食動物が勘違いをして、「食べたらに危険だから」と立ち去ってくれることがたまに起こること。

 

捕食動物は、食べるときに、とどめをさしてくれません。ほぼ”生き作り”状態で食べられます。その際に、あたかも全身麻酔がかかっている状態になるので、痛みを感じないで済みます。

 

そして、生き残る可能性が高くなること。ライオンのお母さんは、その場ですぐに食べず、子供たちを呼びに行くことがあります。そのあいだに凍りつきから抜け出すことができれば、逃げることができます。もし、漁夫の利を狙ったハイエナが現れて、お母さんライオンと戦い始めたら、逃げることができるチャンスはさらに高まります。

 

草食動物たちは、凍りつきから出てくるときに、小刻みに震えて(凍りつき反応のために生体内に滞留したエネルギーを放出して)、凍りつきから出てきます。

 

俗に”死んだふり“と呼ばれますが、正確な表現とは言い難いです。別に演技をしているわけではありませんので、

 

従来の学説では、ストレストラウマによって、精神的・肉体的に不健康な状態に陥った人の状態をじゅうぶんに説明しきれないし、改善すための方向性を示すことができませんでした。

しかし、多重迷走神経理論ポリ・ヴァーガル理論)は、状況を説明できるし、改善のための方向を臨床で示すことができるので注目を集めています。

 

先ほどの具体的な状況に当てはめて言えば(実際にはこんなに単純に説明しきれませんが)、

 

人によっては、本番では体温が下がる

–>背側迷走迷走神経が優位になり、凍りつきが起きている

 

人によっては、指が冷たくなる。

–>背側迷走迷走神経が優位になり、凍りつきが起きている

 

人によっては、心臓がバクバクする。

–>交感神経が過剰に優位になっているところから、背側迷走迷走神経が優位になりかかっていて、凍りつきが起きかけている可能性がある

 

人によっては、息が吐けない(さらに程度が甚だしいと過呼吸になる)。

–>交感神経が過剰に優位になっているところから、背側迷走迷走神経が優位になりかかっていて、凍りつきが起きかけている可能性がある

 

人によっては、息が入らない。

–>交感神経が過剰に優位になっているところから、背側迷走迷走神経が優位になりかかっていて、凍りつきが起きかけている可能性がある

 

人によっては、足がふわふわして、地面にくっついていないような違和感がある。

–>背側迷走迷走神経が優位になり、凍りつきが起きている

 

人によっては、エネルギーが頭に上がってしまって、降りてこない感じ。

–>背側迷走迷走神経が優位になり、凍りつきが起きている

 

人によっては、本番前にお腹を壊す。

–>腹側迷走神経・交感神経・背側迷走迷走神経のバランスが崩れている。

 

人によっては、本番前に便秘になる。

–>腹側迷走神経・交感神経・背側迷走迷走神経のバランスが崩れている。

 

人によっては、本番後に必ずお腹をお壊す。

–>腹側迷走神経・交感神経・背側迷走迷走神経のバランスが崩れている。本番前と本番中に交感神経が過剰に優位になっている可能性もある。

 

すべてのアレクサンダー・テクニークの教師のレッスンでそれが起こるとは言えませんが、10年以上専業で教えている教師たちとのレッスンによって、ステージ・フライトの課題を解決できることがあるのは、自律神経系の働きが整うからです。

 

私たちは大きな問題があると、すぐに解決しようと思いますが、大きな変化は私たちの神経システムにとって大きな負荷になり、逆に状況をひどくすることもあります。

トラウマ治療のためにカウンセリングを受けて、悪化するケースを思い浮かべていただけるとよいでしょう。不適切なカウンセリングを受けて。二次トラウマを被って、自殺するケースもあります。

 

アレクサンダー・テクニークの原理に従いゆっくりと、そして先入観を持たず、具体的に生徒さんからお話を伺いながら、そして、なるべくきちんとした羅針盤を生徒さんに与えながらレッスンすることが大切であると、私は思います。

 

そして、ステージ・フライトがどういう状態なのかということについて、おぼろげながら説明できるようになると、どのようにレッスンしてゆけば解決してゆけるのかということも少しずつ分かってきます(行き当たりばったりのレッスンや、「すべては時間が解決する」というレッスンよりも、ちょっとはマシになります)。

 

 

あがり症や緊張対策で、実際のレッスンで行うのは、通常のレッスン&刺激に対する自律神経系の反応をいかに健康的なものにするかということです。

自律神経系や脳幹に働きかけるための具体的な手順を行います。ちょっとばかっぽいのですが、脳幹や自律神経系に働きかけるためには説得(滞納からのトップダウン)はほぼ役に立ちません、

 

***

 

3年前にネットで、ポリヴェーガル理論あるいは多重迷走神経理論ついて調べたとき、日本語では1件しか出ませんでした。今や数100件、内容の誤りが甚だしい情報があります、このような混乱が起きているのは、概説書の翻訳がないからです。早期の出版を望みます。

 

この文章の作成にあたって、2012年8月から2015年3月にかけてトレーニングをを受けたSomatic Experiencingのお講座から受けた示唆は大きかったです。
特にアシスタントとして参加され、たいへんお世話くださった平田 継夫さんからのご教示のおかげで理解がより深まりました。

 

 

この文章を参考にされて何かを公開する文章を書かれる場合には、必ず参考文献として挙げてください。この文章に限りませんが、盗作される方たちが非常に多く、迷惑しております。

関連(内部リンク)

周囲に自然に注意を払うこと—定位反応とアレクサンダー・テクニーク

 

ステージ・フライトになりやすい人、上がりやすい人は、外界との境界である皮膚があいまい

 

自律神経系が落ち着くと、

あがり症は少しずつ解消されてゆきます。

そして、対人的なお仕事をする方にとって必要な、人を励ますような存在の質が生まれます。

表現者にとってじゃ、いわゆるオーラのある、説得力のある存在の質が生まれます。

 

このことをテーマに次の日程で講座をします。

2017年1月30日(月) 14:00-16:30 東京・荻窪グループレッスン

2017年2月18日()10:00-12:30 東京・荻窪グループレッスン

個人レッスンでは、同じテーマをより深く行います。随時行っています。

次のメールフォームに入力くださいませ。 ただし、ケイタイ用お申込み・お問い合わせフォームはこちらです。

 

コラム目次

参考文献(外部リンク)

スティーブン・ポージェス博士のインタビュー

BIPSのホームページ

The Science of Compassion by Stephanporges

ともにSomatic Experiencingのトレーニングを受けた、ロルファーの三浦正貴さんのブログに掲載された、スティーブン・ポージェス博士のyoutube動画の日本語訳。