弦楽器・撥弦楽器奏者向けの東京グループレッスンのご報告-2019年5月19日(日)

2019年5月19日()弦楽器奏者と撥弦楽器奏者の課題解決のためのアレクサンダーテクニークのグループレッスンをしました。

 

チェロ奏者の方1名、二胡奏者の方2名。全員初参加の方たちでした。初対面の3人の勇者たち。

 

ご自分たちの課題にしっかり向き合って、それを解決しようとする生徒さんたちを、私は勇者と呼びます。

 

受講者の方たちから事前にいただいた課題

  1. フォルテのときに力が入りすぎる
  2. 脱力が分からない
  3. 人前でソロ演奏する際に緊張でガチガチになってしまい、思うような演奏ができなくなる
  4. 弓の切返しが上手くいかない
  5. ヴィブラートがかけられない
  6. 速弾きが苦手

 

はじめに

首こりや肩こりがある方たちもいらしたので、右を向いたり、左を向いたり、上を向いたり、下を向くという動きをしていただき、次にアレクサンダーテクニークを使って再びそれらの動きをしていただき、動きのなめらかさの変化、動いた後の身体の感覚の違いに気づいていただきました。

 

動くときの筋肉のこわばりが減り、左右を向くのは可動範囲が広くなる方が多かったです。

また動いた後に、血行がよくなったり、少し首こり・肩こりが楽になるという気づきがありました。

 

その後腕を挙げたり、降ろしたり、立ったり、座ったり、歩いたりという動きについて、ビフォーとアフターをご経験いただきました。

 

歩くことについて、股関節の外旋・内旋についても行ないました。着地する足の側の股関節が若干内旋し、足が地面から離れるときにそちらの側の股関節が外旋します(アレクサンダーテクニークの4つのディレクションの4番目”両膝が前に、そしてお互いに離れていく”が起こります)。

 

後ろ脚の股関節の外旋の方向を思うだけで、歩きがより楽になります。矛盾するように聞こえるかもしれませんが、地面から離れる側の脚に”支え”ができます。アレクサンダーテクニーク用語で言うと、オポジションです。

この部分は 弓の返しの齋にも重要になるので、強調しました。

 

さして、弦楽器奏者の方立ちが大事にしている呼吸についても、行ないました。

 

フォルテのときに力が入りすぎるという課題

弦楽器奏者の方たちがよく使う別の言い方をすると、腕の重さが弓を通して、弦に伝わりにくいという課題です。

重さをかけようとして、肩や脇の下を下に押し下げようとして、胸から腕に向かう大胸筋と背中側から腕に向かう広背筋を同時に緊張させてしまい、結果的に二の腕が動きづらくなり、力んでしまうという力みの問題とも深く関わります。

 

下図の大胸筋(腹部)は、二の腕の付け根が肩や脇の下が上にいる状態で収縮(緊張)すると、肋骨が持ち上げられますが、肩や脇の下や腕の付け根を押し下げるとは、肋骨をその場にとどめて、胸筋(腹部)や小胸筋を緊張させて、肩や脇の下や腕の付け根を下に引っ張ることです。

 

二の腕が動きづらくなるだけでなく、弦楽器奏者が大事にしている呼吸もじゃまされます。

広背筋
広背筋
胸郭を下げる筋肉と胸郭を広げる筋肉 原図 三木成夫 「生命形態学除雪」を改変
原図 原図 三木成夫 「生命形態学除雪」を改変。三木先生の図は外肋間筋と内肋間筋が逆さまになっていたので。。。

 

他にも三角筋や僧帽筋などが遠心性収縮(引き延ばされて緊張すること)を起こしますが、煩雑なので省略します。

 

 

 

チェロ演奏-ビフォー
チェロ-アフター

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

では解決のための方法は、物理的な力を伝達が弓から弦に伝わるようにすることです。そのためには、例え話になりますが、”力の通り道”を開く必要になる。中国拳法の人たちが勁道(けいどう)と呼んでいるものと類似のものです。

 

ではそのためにどうするのかというと、演奏中に全身を押し下げず、伸びやかにすることです。そのようにすると、楽にフォルテができます。そのプロセスを言葉と手を使ってお伝えしました。

 

 

 

 

脱力が分からない

上腕(二の腕)の内旋・外旋、肘から先の前腕の回内と海外の債の二の腕へのディレクションを実習中

前項と表裏一体の問題。脱力しようとして、たいていの方たちが、よかれと思って腕の付け根や胴体を押し下げようとして、結果的に全身の筋肉の力が入って、固まってしまうというパターンです。

 

写真をあまり撮りませんでしたが、一連の複数のワークの中で、たまたま1枚だけ撮影したものを掲載します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人前でソロ演奏する際に緊張でガチガチになってしまい、思うような演奏ができなくなる

緊張とかあがりとかあがり症とかあがり性とか呼ばれるものです。楽器を演奏されない方たちの場合にも、大事な場面で起こることがあります。

プレゼンテーションでしたら、言葉が震えても、相手に熱意誠意人柄が伝わって、結果オーライなこともあります。

しかし、演奏する場合には、人柄とか誠実さとかそういうことで演奏の評価が変わることがないので、かなりシビアな話になります。

 

こういうあがり性、たいていの方たちはメンタルの問題だと思ってしまう。だからフィギュアスケートの羽生結弦さんが怪我を乗り越えて、優れたパフォーマンスを見せると、実況中継中のアナウンサーは、「なんというメンタルの強さでしょう!」と感嘆するのです。

 

メンタル強くしようとしてうまくいく人はそれでよいです。例えば緊張しても慌てなければ大丈夫とか。

でも、それではあがり症の程度が重度だと、私の経験ではうまくいきません。

 

実はあがり症って生理的な状態、自律神経の問題なのです。心理的な問題ではなくて生理的な問題。それを踏まえていくつかワークをしました。

 

拙著『実力が120%発揮できる!ピアノがうまくなるからだ作りワークブック』(ヤマハミュージックメディア)のpart.1の1から5に掲載した方法のいくつかと、別の方法をいくつか。

 

弓の切返しが上手くいかない

弦楽器の上げ弓(アップボウ)と下げ弓(ダウンボウ)、二胡では”押す”と”引く”と言いますが、これらの動きの返しをスムースにすることについて、行ないました。

 

これは腕、特に肩甲骨の動きの癖をやめていくこと、胸骨が動くようになることだけでなくて、「

思いのほか、股関節の動き(内旋と外旋)が関わっています。それについて実践的にワークを行ないました。

 

拙著『実力が120%発揮できる!ピアノがうまくなるからだ作りワークブック』(ヤマハミュージックメディア)では、ピアノの上行・下行をスムースにするためのワークとして10頁近く3つのワークを紹介していますが、そのうちの物差しを使うワークを行ないました。

 

このワークを行なうと、弦楽器の弓の返しがスムースになる効果があります。

 

ヴィブラートがかけられない

すでに述べた押し下げをやめることと、特に脇の下周辺。そして太ももを胴体に引き込むのを辞めることで、ずいぶん改善します。

 

速弾きが苦手

速く弾くようになると、特に背中側を押し下げる人が多いです。それを防ぐには肋骨方向に胴体の奥行きを意識して、背中側を広くする必要があります。

 

拙著『実力が120%発揮できる!ピアノがうまくなるからだ作りワークブック』(ヤマハミュージックメディア)でご紹介したワークをそのまま行ないました。

すべての楽器で共通です。

 

 

最後に声楽の発声を

3名のうちおふたりは歌う方で、最後に歌についてもレッスンしました。

おひとりは、表情筋の使い方を変えることによって、声の響きが増しました。

 

もう一人の方は、声を出すときに全身を押し下げる傾向が強いので、全身を伸びやかにしていただくと、声量も響きも変わりました。

 

高い声を出すときの支えについて、おふたりとも課題がありましたが、次回以降に行なうことにしました。

 

 

今回は、ビフォー&アフターが分かりやすい写真をほとんど撮ることができませんでした。

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ABOUT US
かわかみ ひろひこアレクサンダーテクニークの学校 代表
第3世代のアレクサンダーテクニーク教師。2003年より教えている。 依頼人である生徒さんへの共感力、課題改善のための活動の動きや言葉に対する観察力と分析力、適確な指示、丁寧なレッスンで定評がある。
『実力が120%発揮できる!ピアノがうまくなる からだ作りワークブック』、『実力が120%発揮できる!緊張しない からだ作りワークブック』(ともにヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)の著者。
アレクサンダーテクニーク教師かわかみひろひこのプロフィールの詳細