解剖学や運動学の概念を紹介しながら、姿勢・呼吸・運動の3つがどうして密接に関連しあうのかということと、アレクサンダーテクニークの特徴の1つをご紹介します。
骨格筋
身体を動かす筋肉を骨格筋と言います。
骨格筋は必ず1つ以上の関節を跨(また)ぎます。
しかし、なかには下記のように、骨格筋が関節を跨がない間違ったイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。でもそれは間違いです。
呼吸筋
そして呼吸に使われる筋肉は、呼吸筋と呼ばれることもありますが、横隔膜を除くと、ほとんどの筋肉は骨格筋です。身体を動かす筋肉の一部が、呼吸のお仕事も担います。
抗重力筋
そして、身体の姿勢を保持したり、静止しているときも、運動しているときも重力に対応させ、転倒させないようにしたりする筋肉たち、運動学の用語で抗重力筋と言います。
抗重力筋も骨格筋です。骨格筋の一部が身体の姿勢の保持の役割も担っています。下の図は抗重力筋の模式図です。
身体の前後に張り巡らされ、バランスと取っています。 そして、この抗重力筋も骨格筋の一部です。
だからこそ、姿勢が呼吸と運動は密接に結びついており、だからこそ、アレクサンダーテクニークでは推奨しない、鋳型にはめるような”よい姿勢”、”正しい姿勢”では、身体は機能をじゅうぶんに発揮できません。
骨格筋であり、かつ呼吸筋であり、かつ抗重力筋である筋肉
なかには1つの筋肉が骨格筋・呼吸筋・抗重力筋を兼ねることもあります。そのうちの1つが胸鎖乳突筋や僧帽筋。 これらは第11脳神経(副神経)支配です。
自律神経と呼吸と活動(運動)との相関
自律神経の通説、つまり自律神経を交感神経と副交感神経に分ける説に従うと、副神経は、副交感神経(自律神経の構成要素)の大部分を占める迷走神経から分かれた神経で、この副交感神経のほとんどを占める迷走神経と連動しやすいです。
ポリヴェーガル理論という自律神経の働きを3つ以上に分類する学説がありますが、ポリヴェーガル理論で言うと、副神経と迷走神経のうちの疑核からスタートする迷走神経が別の脳神経(もともと原始魚類の鰓の呼吸筋を制御していた三叉神経・顔面神経・舌咽神経・副神経)、他の方と社会的につながり、意思疎通をスムーズにする腹側迷走神経複合体を構成する神経の1つです。
つまり胸鎖乳突筋と僧帽筋は、自律神経と連動しやすいと言ってよいです。
例えば抗重力筋の1つであるふくらはぎの筋肉が緊張すると、バランスをとるために全身の筋肉が連動して緊張します。 ふくらはぎの筋肉が過剰に緊張すると、全身の筋肉が過剰に緊張し、呼吸や運動のじゃまを始めます。
いま述べたことは、すべての抗重力筋について成立しますが、首の大きな筋肉である、胸鎖乳突筋と僧帽筋は自律神経の働きと密接に結びついているというところが独特です。
つまり骨格筋であり、抗重力筋であり、呼吸筋でもある胸鎖乳突筋や僧帽筋が緊張しすぎると、自律神経の働きが乱れ、呼吸にも、運動にも支障がでるということです。
逆に首の大きな筋肉である胸鎖乳突筋や僧帽筋が適度に緩むことは、自律神経が整うことでもあり、呼吸にも運動にも好影響を与えます。
自律神経と抗重力筋・呼吸筋・骨格筋との相関
上記の図に、骨格筋・呼吸筋・胸鎖乳突筋を補うと下記の図になります。
抗重力筋(黄緑色)はすべて骨格筋ですので、抗重力筋は骨格筋(橙色)に完全に収まります。
横隔膜を除く呼吸筋(薄紫色)は骨格筋ですので、呼吸筋は骨格筋(橙色)から少しはみ出しています。
抗重力筋と呼吸筋はかぶる筋肉もありますが、大殿筋や大腿四頭筋やハムストリングや前脛骨筋や下腿三頭筋などは、抗重力筋ですが、呼吸筋ではありません。
アレクサンダーテクニークと自律神経と抗重力筋・呼吸筋・骨格筋との相関
アレクサンダーテクニークのレッスンを経験した多くの方たちが、姿勢と呼吸と運動に変化を生じますが、このアレクサンダーテクニークでは首を重視していると言われることがありますが、もしアレクサンダーテクニークが首の筋肉を解放することで全身を整えるメソッドであるならば、それはとりもなおさず、自律神経を整える手段として機能していると言えそうです。
アレクサンダーテクニークの手順としては、インヒビションの手順で自律神経の状態を瞬時に活動に最適な状態に変えて、呼吸も変化し、ディレクションを思って動くことで、活動や運動の質が変わり、自律神経や呼吸にも好影響を与えます。
なお、アレクサンダーテクニークが自律神経を整える手段として機能していることについては、1973年にノーベル医学生理学賞を受賞したニコーラス・ティンバーゲン博士がノーベル賞受賞記念講演で示唆しています。
アレクサンダーテクニークのユニークなところは目的と手段が入れ替わりにくい
私たちは、なにかの目的を達成するためにある特定の手段を選ぶことがあります。そして、いつのまにか目的と手段が入れ替わってしまうことがあります。
例えば
最初はうまく踊れるように、あるいは演奏の表現力を高めるために、姿勢を整えていたはずが、正しい姿勢に捕らわれ、正しい姿勢を目指してして、”正しい姿勢”をすること自体が目的化してしまう。
より健康になるために、呼吸に気をつけていたはずだったのに、特殊な呼吸のメソッドをすることが目的になってしまい、かえって不自由になってしまう。
ワークの手段や短期的な目標が単純であると、思考回路が単純な枠にはめられがちになります。
その点アレクサンダ-テクニークは、手段はインヒビション(自分に余裕を与えること)とディレクション(方向)で、人間が本来持っていると仮定されているプライマリー・コントロールという一見しても意味が分からないものを目覚めさせることを目的とするワークなので、そういった枠にははめられにくいのかなと思います。
もちろん、アレクサンダーテクニークでも”正しさ”を求めてしまう罠はあります。
効果が上がっているのか、冷静に評価することは必要です。
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