管楽器奏者の方たちとのアレクサンダーテクニークのレッスンで取り上げる課題
今回は、管楽器奏者の方たちとアレクサンダーテクニークのレッスンをするときに取り組むことが多い、以下の4つのことをお話しします。
- 長時間楽器を構えるので重いという課題
- 管楽器奏者の呼吸のしにくいという課題
- 息が吸いにくいという課題の原因
- どのようにして解決してゆくのかということ
左図はエアー楽器を構えている図です。写真の左側は、アレクサンダーテクニークのレッスンに初めてお見えになった、たいていの管楽器奏者の方たちがやってしまうことです。
すなわち、楽器を持ち上げるときと、楽器にも重さがありますし、腕にも重さがありますので、身体の前方が重くなります。たいていの方は、背中側をつぶして、重心を後ろに移すことによって、身体の前後の釣り合いを取ろうとします。
その結果、楽器を長時間構えることや、呼吸を困難にしてしまいます(後述)。
重い楽器を持ち上げるときに、少し余裕を与えて(インヒビション)、首が自由に、頭が”前に上に”、背中が長~く広~く、両膝頭が前に、そして互いに離れてゆく、全ては同時に、そして順番にという指示(ディレクション)を自分自身に与えて、持ち上げると、首や腕や肩や背中や腰や脚への負担が減る経験は、アレクサンダーテクニークのレッスンをご受講される方は、どなたも経験されることでしょう。
もし、そういう経験をされたことがないのでしら、別のアレクサンダーテクニーク教師(例えばアレクサンダーテクニーク教師かわかみひろひこ)のところにレッスンに行きましょう。
アレクサンダーテクニーク教師が考える、楽器を構えるまでの3つの決定的瞬間
アレクサンダーテクニークのレッスンを受けて、楽器を構えたり演奏することが楽になるときに、なにが起きているのかということを、3つの決定的瞬間(場面)を追って、説明します。
実は、動きに入る前に、どのように見ているのかということが(視界への注意の向け方の話題です)、呼吸や「からだ」のサポート(支え)に非常に重要な意味を持ちますが、本稿では割愛します。
また、楽器を支えるときの固定筋(安定筋)の役割が重要になります。特に前鋸筋と菱形筋。しかし、本稿では割愛します。
場面1 アレクサンダーテクニークを使って、楽器を見下ろす
楽器を見下ろすときに、頭部を胴体方向に押しつけがちです。もし楽器を見下ろしたときに、首や肩の首に近いあたりに違和感・力みをお感じになるとしたら、頭部の押し下げが起きています。そして、首と首の近くの肩の辺りの筋肉について、上からと下からの”引っ張り合い”が起きています。
“押し下げ”を防ぐためには、頭部を傾けるときに、アレクサンダーテクニークを使って、環椎後頭関節(頭蓋骨と首の骨のあいだの関節)から傾けます。そうすることで、頭の胴体への押し下げはずいぶん減ります。
そして、アレクサンダーテクニークを使って、お尻も含めた背中側と胴体の側面が上に広がるのを許します。そうするときで、違和感が起きたとき二起きていた引っ張り合いがなくなります。
下を向くときに、もちろん「からだ」を動かすので、もちろん収縮を起こす筋肉はありますが、全体として伸びやかになります。 もし、窮屈になっていたら、”押し下げ”が起きています。
場面2 アレクサンダーテクニークを使って、楽器に腕を伸ばして、しゃがむ、姿勢を低くする
楽器に腕を伸ばして、しゃがむとき、あるいは姿勢を低くするときに本来は、伸びやかなまま、必要があれば膝を曲げて、楽器に上を伸ばします。
ところが、やりがちなのは、背中側を押し下げて、脇の下と肩甲骨を押し下げ、そして骨盤を膝が曲がる方向に(”前に下に”)押し下げてしまうことです。
そのようになると、からだ全体が窮屈になり、後ほど楽器を構えたときに呼吸がしにくくなり(肋骨が背中側に膨らまなくなるため)、首や肩や腰に負担がくる原因になります。
ですので、アレクサンダー・テクニークの基本のインヒビションとディレクションに注意を向けつつ、特に、脇の下の押し下げをやめるために、地面から脇の下に向かう”上への”ディレクションを思って、胴体の奥行きを思って、股関節を開放します。どちらも、”背中は長~く広~く”のディレクションの一部です。
場面3 アレクサンダーテクニークを使って、楽器を持ち上げる
楽器を持ち上げるときに、このときに背中側を押し下げて、脇の下や肩甲骨を”押し下げ”がちです。 そのようになると、楽器と胴体を背骨と横隔膜で支えられなくなります。重心が急速に後ろに移動するからです。
私たちの胴体の構造は背骨と横隔膜で支えます。このことはアレクサンダー・テクニークの本には書いてあることが少ないですが、解剖学的な常識です。ご興味のある方は、「せぼねの不思議」(下出真法 著 講談社 絶版)という本を読んでください。
胴体の構造を背骨と横隔膜が支えることについては、いずれ機会を見て、アレクサンダーテクニークの観点から書こうと思います。
でも転んでいませんね。では背骨と横隔膜でじゅうぶんに支えられなくなった胴体をどこで支えているのでしょうか? 実は、背中側の筋肉をいっせいに収縮(緊張)させて、背骨と横隔膜で支えきれなくなった重量を支える状況になり、転倒することを防いでいるのです。
加齢によって、筋力が弱くなって、背骨と横隔膜で支え切れなくなり、例えば片手で高い棚の物を取ろうとするだけで、転倒することがあります。しかし根本的な問題は、筋力が低下したことではなく、背中側を押し下げていることです。
そのように背中側を押し下げると(押しつぶすと)、状況になると、漏れなく広背筋が収縮(緊張)します。
広背筋は、いろいろなお仕事をする筋肉ですが、例えば商店のシャッターを下ろす動作をするときに収縮する筋肉です。
根本の筋膜は仙骨からスタートし、肩甲骨の下の方と、上腕骨(二の腕の骨)に付着します。
すなわち、広背筋は楽器を持ち上げる動作とは反対のお仕事をするときに収縮する筋肉なので、広背筋は楽器を持ち上げる動きの拮抗筋になります。
呼吸の仕組みで触れるので、ここでは詳しく説明しませんが、広背筋は息を吸うときに必要な収縮するいくつかの筋肉(主働筋)にとって、拮抗筋として働きますので、広背筋が収縮し過ぎると、息もじゅうぶんに入らなくなるのです。
楽器を構えるときには、肘関節の屈曲、肩関節の前傾(屈曲のほうが一般的な呼び名)、肩関節の外転、前腕の回内、肩甲骨の外側への回旋、鎖骨の動きが起こりますが、
フルートの左腕については、肩関節は外転しません。フルートに関する特記事項は、別にコラムを用意します
もし、楽器(と腕)を持ち上げるときに、広背筋が収縮したら、広背筋が収縮しないときに比べると楽器と腕を持ち上げるための主働筋である上腕筋、上腕二頭筋、三角筋の肩峰部※2・鎖骨部、大胸筋の鎖骨部、烏口腕筋および前鋸筋※3がたくさん収縮(緊張)しないと、楽器(と腕)を持ち上げることができません。
あまり詳しく説明し過ぎると、かえって煩雑になるので、楽器を構えるときに筋肉がどのように働くかについては、後日別のコラムを用意します。
このように何かを行うときの主働筋と拮抗筋が同時に収縮することを、共収縮または同時収縮といいます。
それは肉眼では”押し下げ”として観察されます(そうは言っても、適切な訓練を受けなければ見えるようにはなりませんが)。
楽器を持ち上げるときに、アレクサンダー・テクニークの適切に使うことができると、”押し下げ”=共収縮を防ぐことができ、楽器を軽々と持ち上げることができます。
通常アレクサンダーテクニークのレッスンでは、ここまで詳しくは解説されることはめったにないのでしょうが(時間の関係かそのアレクサンダー教師の勉強不足のため)、アレクサンダー・テクニークを使って楽器を持ち上げると、腕や肩や首や背中側の負担や違和感が減るのは、以上のところで述べてきた理由があるからです。
アレクサンダーテクニークを使って、楽器を構えるというアクティビティの概念の転換する
しかし、楽器を持ち上げる動きは一過性の動きで、そのまま構えて支える続けることに時間的に比較的長く継続します。楽器を持ち上げたり、構えたりすることが軽々持ち上げることができるようになっても、必ずしも楽器を構えて演奏することが楽にならない人たちがいます。
もしあなたが継続的にアレクサンダー・テクニークのレッスンを継続的に受講しているのにもかかわらず、すなわち週に1回、10日に1回、2週間に1回、1ヶ月に1回と継続的にレッスンを受け始めてから3か月以上経過しているのに、1曲演奏するだけで、演奏中・演奏後に首や肩や背中や腰にかなり負担をお感じになる場合は、少なくても楽器を演奏することに役立つアレクサンダー・テクニークのレッスンを受けていないと断言します。少なくても、あなたにとって役に立っていませんね。
実は楽器を軽く保持するためには、楽器を構えることについての根本的な概念を組み変える必要があります。すなわち、楽器を腕や肩や腰で支え続けるという概念を別の概念に置き換えるのです。
すなわち、”前に下に”重い楽器&両腕と、後ろに植えに奥行きのディレクションを与えた胴体とのバランスを取るのです。このように概念を変えれば、腕や肩や腰に掛かる負担は劇的に改善します。もちろんひとりでできるようになるためには、たいていの方はレッスンと日常での実践を何度も繰り返すことが必要です。
下は”手をつないだスクワット”というアレクサンダーテクニークのプロシジャ(テーマを持った手順)の連続写真の一部です。体験しないと分かりませんが、積極的に力を入れて引っ張りっこをしているのではありません。アレクサンダーテクニークの手順を使って伸びやかなままこの手順を行うことができると、ふたりとも行っている間や終わった後に、腕も、首、背中、肩、腰が解放されます。この手順では相手と自分の重さのバランスをとっているのですが、どこにも負担がかからず、呼吸も落ち着いてできます。
もし負担がかかるのであれば、ふたりのうち、少なくてもひとりはうまく行っていないことになります。
楽器の場合は、どれほど重いと言っても、手を繋いだスクワートを行う相手の体重ほどはけっして重くないし、楽器はもっと「からだ」に近づけて構えますので、もし楽器を構えるときにこれほど後ろに行ったら、後ろに倒れます。
だから、”手を繋いだスクワット”のようには後ろまで行きません。そうではなくて、胴体の奥行きに斜め後ろ上方向を与えることによって、楽器(&腕)と胴体との釣り合いを取ります。
アレクサンダーテクニークの手順-手を繋いだスクワットの注意点
手を繋いだスクワットを行うときに、行いがちな癖(くせ)は5つ。
-
- 呼吸を止めやすい
- 視界が狭くなりやすいか、逆に過度に広くなりやすい
- 頭を後ろに引きすぎになりやすい(頭部の重心が”後に下に”落し下げられる)
- 肩甲骨や脇をの下を押し下げやすいです(背中が狭くなりやすい)。
- 股関節を固めやすい
いずれか1つか複数のことが行われると、相手が重くなります(私たちの筋肉で、私たち自身を軽くする)。
自由度が増すという必要条件を満たしているか?
このときに頭と胴体・腕と脚の関係ですが(特に注意を向ける必要があるのは、お尻も含めた背中全体の状態ですが)、通常後ろから捕まると、歩けませんね。
試しに二人一組で交代して、やってみましょう。いかがでしたか?
ところが、今までやったことの条件をすべて満たすと、つまりアレクサンダーテクニークを実践すると、まるで嘘(うそ)のように余裕で歩くことができます。 もしできなかった場合には、これまで述べてきたことがきちんとできていないので、私のアレクサンダーテクニークのレッスンにいらしてください。
このような状態になったときに、呼吸は自由になり、息が自然に入ってくるようになり、楽器も軽く支えることができるようになります。 管楽器を演奏していらっしゃる方たちや声楽をされている方たちには(それ以外の方たちにも)、ぜひとも習得していただきたい技術です。
呼吸の仕組みについて、こちらで詳しく説明いたします。
※2 三角筋の肩峰部が楽器を構えるときの肩関節の外転を担当する。
136頁「分冊解剖学アトラス1 運動器」文光堂 第4版
※3 「腕の前傾に協力して働く筋:三角筋の鎖骨部と肩峰部の一部、上腕二頭筋、大胸筋の鎖骨部、烏口腕筋および前鋸筋」
148頁「分冊解剖学アトラス1 運動器」文光堂 第4版
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アレクサンダーテクニーク教師かわかみひろひこのレッスンの勧め
自由な呼吸を取り戻すことについて、独自の工夫を重ねてきたアレクサンダーテクニーク教師かわかみひろひこのレッスンをぜひご受講ください。
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