作成日: 2009/12/11
最終更新日: 2011/8/3

 

1.はじめに

私のところには、先生から「脱力しなさい」と注意され、「脱力」できずに泣きついてこられる方が大勢お見えになります。そして、アレクサンダーテクニークのレッスンを適切に行うと、その方たちはご自分の力が入り過ぎるという課題解決されます。

そのような経験を通して、もしかしたら、大勢の方たちにとって「脱力」という指示は解決糸口にはならないのではないかと思うようになりました。

 

 

2.「脱力」する必要のある状況とは?

演奏家の方の中には、先生や仲間から、

「固いから、脱力したらよいよ」

「リラックスしなさい」

というアドバイスを受け取る場合があります。

またそういうアドバイスを生徒さんや同僚の方たちに対して行うこともあるでしょう。

そのアドバイスが有効な場合もあります。

しかし、あまり効果がないばかりか、かえって以前よりもパフォーマンスが低下することさえあります。なかにはパフォーマンスに必要な力を脱力したために、かえって別のところに力が入ってしまった人もいました。

なぜ「脱力しなさい」という指示がうまくいかないことが多いのかについて、考えていきましょう。

『固く』見える現象にもいろいろあります。以下に(1)~(4)までを思いつくままに挙げます。

(1) 自分自身を過剰に下に「押し下げる」

(2)心理的なプレッシャーなどで、からだの回りの筋肉を鎧(よろい)のようにするケース

そのようになると、人間は腕につながる筋肉も含め、胴体の周りの筋肉(体壁性随意筋)も呼吸に使っているので、呼吸が困難になります。

腕につながる背中側の筋肉(広背筋・僧帽筋等)や正面側の筋肉(大胸筋等)も緊張するので、パフォーマンス面では、例えばピアノ演奏の場合には、鍵盤に力が伝導せず、手前に落ちてしまうことも多いようです。 そして、当然音のコントロールが困難になります。

(3)気がつかないうちに、実際の関節があるところとは別のところを曲げようとするケース

実際の関節があるところとは別のところを曲げようとしても最終的には曲がります。

しかし力づくになります。次のような悪影響が起こります。

イ) 力(りき)みが生じ、筋緊張が増えるので、パフォーマンスが低下します。

ロ) 動こうと思ってから、実際に動きが始まるまで、時間的なロスが生じます。 したがって、いつも次の動きのために身構えることになります。

ハ) 筋肉や腱の組織を痛めます。つまり、自分自身のからだを痛めつけ、故障や不調の原因になり、キャリアを縮める原因になります。

ニ) 曲がらないところで曲げようとすると、危険なので、関節を守るために、「そこで曲げないで」と筋肉の緊張が起こります(防衛反射といいます)。繰り返すと、「やめて」という筋肉が鍛えられ、ますますパフォーマンスのじゃまになります。

(4)拮抗筋同士の共縮(きょうしゅく)が起きているケース

共縮とは、伸筋と屈筋が同時に縮むことです。固まってしまいます。

実際には(1)~(4)はそのすべてか、あるいはいずれか複数の組み合わせで起こることが多いようです。

「固いから、脱力したらよいよ」「リラックスしなさい」というアドバイスが有効なのは、せいぜい(2)と(4)のケースです。

(3)に関してはほとんど有効なアドバイスにはなりません。

なぜならば、(3)の緊張は自分の「からだ」を壊さないために必要な緊張だからです。(3)の緊張をやめるためには、適切なところで曲げる必要があります。

 

さて、ここまで触れなかった(1)の「からだの押し下げ」に関してはいちばん理解しにくいところです。

これは課題を持つ多くの方にとって、アレクサンダーテクニークのレッスンを実際に経験して自分自身の「押し下げ」に気づくまで分からないことが多いかもしれません。

「押し下げ」については、次の原稿をご参照ください(クリックすると開きます)。

「ピアニスト/ピアノ演奏の指導者の方たちへ-アレクサンダーテクニークを使ってピアノを演奏する」

 

 

3.結び

演奏中に固くなることが解決すべき課題の演奏家にとって必要なことは、状況を適切に把握して、適切な対処を行うことです。

そして、そのような方たちにとって、アレクサンダーテクニークの教師のレッスンを受けるのは力強い選択肢の1つになるでしょう。

また自分自身の使い方に課題をもった生徒さんに適切なアドバイスを差し上げるために、演奏の先生がアレクサンダーテクニークの教師からレッスンを受けることは、大きな助けになるでしょう。

と申しますのは、先生ご自身の容易にできることが、生徒さんにとってはクリアすることが困難な場合に、生徒さんのどのような癖が妨げているのかを適切に把握し、適切にアドバイスできるようになるのです。

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