おはようございます。アレクサンダーテクニーク教師のひろひこ@(^-^)ノです。

今朝は、ボディマッピングの起源について書きます。ボディマッピングは、世間で言うところの「有効脱力」とも関連します。ボディマッピングの創始者はウィリアムコナブル博士です。彼はベテランのアレクサンダー・テクニーク教師で、チェリストで、指揮者です。長年オハイオ州立大学でチェロとアレクサンダー・テクニークを教えていました(2008年退官)。

 

コナブル博士ははヴァイオリン奏者の学生が、演奏中にものすごく体を縮めるのを見て、
「君はいつヴァイオリンを始めたの?」と聞きました。
その生徒さんは「6歳」と答えました。

 

ある考えがひらめきました。彼はヴァイオリンを弾き始めようとしたとたんにその刺激で、無意識に6歳のころの体の大きさに戻ろうとしているのではないか?
そこで、もう1度ヴァイオリンを演奏してもらうときに、
「あなたの頭の高さはここまであって、腕はこの長さがあって、肘はここで曲がって・・・」
と指導して行きました。

 

数年後、彼に会ったとき、演奏するときにもはやからだを極端に小さくすることはなくなっていました。そして、ウィリアム・コナブルさんから受けたレッスンのことはすっかり忘れていました。
でもウィリアム・コナブルさんにとっては、そのレッスンが新しいスタートになりました(『アレクサンダー・テクニークの学び方』誠信書房より)。

 

脳の中に地図があるということは、脳神経科学(あるいは脳科学)でも言われています(最新の研究成果は『脳の中の身体地図ボディ・マップのおかげで、たいていのことがうまくいくわけ』インターシフトをご参照ください。この本を書いたのはサイエンスライターのブレイクスルー親子で、親の方はノーベル医学生理学賞を受賞したラマチャンドランの『脳の中の幽霊』の共著者です)。

 

そして最近は演奏者がなることも多いフォーカルジストニアの治療法として、脳の中の身体地図を変えることが試みとして行われているそうです。

 

なぜ地図を変えることができるかと言うと、脳には可塑性(かそせい)があるからです。

 

ウィリアム・コナブル博士の発見は、そのような脳神経科学上の発見を先取りするものでした。
ウィリアム・コナブル博士の発見、私たちに脳の中に身体の地図がある。そして私たちはその地図に基づき動く。
地図が実際の体のしくみと概ね合っていたらうまく行くのですが、大きなずれがあったら不都合が生じます。

 

ここからは私流の説明になりますが、例えば腕の長さ、どこで曲がるのか?といった情報が間違っていると(地図とからだの構造に不一致とがあると)、最終的には曲がるところでしか曲がりませんが、時間的なロスが生じ、力づくで動かざるを得ないので、強弱の繊細なコントロールがしにくくなります。

 

なぜ力づくになるかと言うと、また私たちのからだは賢いので、もし実際とは違うところで曲げようとすると危険なので(関節技を自分自身にかけるような事態が起きやすいので)、「そこで曲げないで!」とある部分の筋肉たちが緊張します。

 

それでも誤ったところで曲げ続けると、「やめて!」と言う筋肉が鍛えられて、動くたびに「やめて」筋が働くのです(生理学的には防衛反射というそうです)。そのために負荷が増します。

 

そして、たとえば演奏のコントールがうまくいかなかったり、怪我や故障(例えば首痛・肩こり・腰痛・腕の痛み・指の痛み・足の痛みなど)の原因になったりします。

 

この防衛反射はからだの智慧です。もし地図とからだの構造が不一致のままで、「やめて」筋が働くなくなればどうなるでしょう? 場合によってはからだは故障しまいます。まあ「やめて」筋が働いても、緩慢に故障して行ったり、不調になったりはするのですが、その瞬間にはコントロールが怪しくなっても怪我はしないので・・・

 

だから、例えば力が入りすぎた演奏家に、「脱力しなさい」とむやみに注意しても、無駄なのです。
そうではなく、そのような防衛反射の原因になっている、脳のなかの地図とからだの構造の不一致を解消する必要があります。
そしてその脳の中の地図は同じ人物であっても、いつも同じとは限りません。
なにか特別な思い入れがある行為(例えば楽器の演奏)のときには、日常生活とは異なる地図が作動することがあります。
私たちはいつも同じ人ではないのかもしれませんね。

 

従来からアレクサンダー・テクニークの教師たちは解剖学を学んでいましたが、ウィリアム・コナブル博士(以下ビルさん)の発見までは、あまり教えるときに有効に活用されているとは言えませんでした。

 

もっとも解剖学を有効にアレクサンダー・テクニークを教えるときに結びつけたのはパトリックマクドナルド氏で、彼は創始者F.M.アレクサンダーの言う「allow the neck to be free」(首が自由になるのを許してあげて)のneck freeが環椎後頭関節、つまり頭蓋骨と背骨のあいだの関節の関係性を自由にすることだと喝破した最初の人物でした(パトリック・マクドナルド著『THE ALEXANDER TECHNIQUE AS I SEE IT』 マージョリー・バーロウ著『An exanmined life』より)。

 

またウォルターカリントン氏の弟子のドンバートンさんも、頭蓋骨と背骨のあいだの関節と頭蓋骨の重心の関係性についてすぐれた図解を残しています(絵は少々稚拙ですが、彼の考え方が大きな発見でした)。その絵はグレンパークさんの『変容の術』(新水社)で見ることができます。

 

だから、ビルさん以前に解剖学がアレクサンダー・テクニークを教える際にまったく有効に使われていなかったわけではありません。

 

しかし、自分自身の使い方を学ぶときに解剖学を広く有効に使われるようになったのは、やはりビルさんの功績でしょう。
ビルさんがボディマッピングの考え方を発表すると、多くの(と言っても大多数という意味ではありませんが)アレクサンダー教師がこの考え方を参考にするようになりました。

 

またウォルター・カリントン氏の弟子のデイヴィッドゴーマン氏は、ボディマッピングに関する詳細な本を書きました(ボディマッピングという言葉は使っていません)。

 

もちろんボディマッピングの考え方に冷ややかな見方をするアレクサンダー・テクニークの教師もいます。例えば『音楽家のためのアレクサンダー・テクニーク入門』(春秋社)というとても素晴らしい本をを書いたペドロアルカンタラさんは、その本の中で「間違った解剖学の知識でなければ、アレクサンダー・テクニークを学ぶのにじゃまにはならないだろう」と言っています。

 

もしかしたら、バーバラコナブルさんの「音楽家ならだれでも知っておきたいからだのこと」に明らかに誤った図や紛らわしい図があることに対する嫌みかもしれませんが。。。

 

またこれはビルさんから直接お聞きした話ですが、ビルさんの先生のマージョリーバーストウさんは

「部分にとらわれていたら、全体性を失うわよ」
という注意をビルさんに与えたそうです。
そして
「なんでそんな奇妙なことを考えるのかしら?」
と極めて距離を置いた反応を返したそうです。
それでも彼女自身は(たぶん他の第1世代の教師たちも)、頭を胴体に押し下げる傾向の強い生徒さんに
「頭はこの高さまであるのよ」
と触ってみせたそうなので、やはりまったく解剖学を無視していた訳ではなかったそうです。

 

このボディマッピングは当時ビルさんの妻であった、バーバラ・コナブルさん、彼女もアレクサンダーの教師ですが、彼女にも刺激を与え、そしてふたりは協力して共著『アレクサンダー・テクニークの学び方』を書きました。
しかし、その本を書いていた当時から、ふたりのボディマッピングの考え方に齟齬が生じました。

 

私がビルさんに聞いた話によれば、少なくても当時はバーバーラさんは、重さが骨に沿って下へ下りていくことを強調しており、 『アレクサンダー・テクニークの学び方』にもそのような記載がありますが、ビルさんはむしろ地面からの反作用、骨を通って上に向かう力を強調していました。

 

私見ですが、地面から戻ってくる反作用の力の通り道を「からだ」の中に開くことが、アレクサンダーテクニークの重要な要素になります(アレクサンダーテクニークの導力アスペクト。瞳力アスペクトは私の造語)。

 

ボディマッピングを教えるとあまりに簡単に成果が出やすいことから、バーバラ・コナブルさんはボディマッピングを教える教師たちの養成を始めました。それがアンドーヴァーエデュケーター Andover Educatorです。

 

バーバーラ・コナブルさんの著作『音楽家ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』や『音楽家ならだれでも知っておきたい「呼吸」のこと』は、バーバーラさんや彼女の生徒たちが制定したアンドーヴァー・エデュケーター Andover Educatorの講座の復習用の教材として作られました。

 

これらの本はとても画期的でしたが、解剖学的に不正確な情報がかなり多く(例えば頭蓋骨と背骨のあいだの関節の位置や、寛骨と背骨の関係・傾きなど)、私は何度がバーバーラ・コナブルさんにメールや封書で訂正の提案のメッセージを送りましたが、お返事が返ってくることはありませんでした。

 

また、これはある方から聞いたのですが、数名の日本人の演奏家のグループがバーバラさんのクラスに参加したときに、『音楽家ならだれでも知っておきたい「呼吸」のこと』の図の間違いについて指摘し、バーバラさんにつめよったことがあったそうです。
そのときに間違いは認めたものの、結局その部分も含め、今日まで修正は行われていません。

 

もっとも『フルート奏者ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』(誠信書房)のような優れた本も、アレクサンダー教師でアンドーヴァー・エデュケーター Andover Educatorでもある方によって書かれました。

 

なお、ビルさんとバーバラさんは10年以上前に離婚され、現在はご夫婦ではありません。

 

現在のボディマッピングの潮流は、ウィリアム・コナブルさんから直接学び、彼をリーダーとして、彼や彼の生徒たち、あるいは彼の考え(著作など)に触発された人たち(アレクサンダー・テクニークの教師やそうでない人たち)によって教えられているものと、アンドーヴァー・エデュケーターAndover Educatorによって教えられていものがあります。

 

当然教える能力については、人によって力量に差があります。
すべてのアレクサンダー・テクニークの教師が必ずしもアンドーヴァー・エデュケーターよりもボディマッピングを適切に教えるとは限りませんし(そもそもボディマッピングを教えないアレクサンダーの教師は多いですし)、逆もしかりでしょう。

 

個人的にはアレクサンダー・テクニークの教師でウィリアム・コナブルさんから長年教えを受け実践している人をお勧めします。
ちなみに私はアレクサンダー・テクニークの教師の訓練を始める前の1998年の10月から継続的にレッスンを受けています。

 

 

人物名が多くなって申し訳ございません。
いずれアレクサンダーwikiの人物紹介を充実させます。
アレクサンダー・テクニークの創始者(発見者)
F.M.アレクサンダー(フレデリック・マサイアス・アレクサンダー)第1世代の教師(F.M.アレクサンダーから直接教師の訓練を受けた直弟子たち)
上記では
マージョリー・バーストウさん
マージョリー・バーロウさん
ウォルター・カリントンさん
パトリック・マクドナルドさん第2世代(直弟子の教師たちから訓練を受けた教師たち。F.M.の孫弟子たち)
上記では
ウィリアム・コナブルさん(バーストウさんの弟子。フランク・ピアース・ジ
ョーンズさん、ウォルター・カリントンさんの生徒でもあった。)
バーバラ・コナブルさん(バーストウさんの弟子)
ドン・バートンさん(ウォルター・カリントンさんの弟子)
デイヴィッド・ゴーマンさん(ウォルター・カリントンさんの弟子)ちなみに私は第3世代。 

なお、敬称を「氏」や「さん」で統一しましたが、私の先人の方たちへの敬意は揺るがないことをお伝えしておきます、

 

初出 2009年06月21日 00:18 http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=43764370&comm_id=1240902

これを今回の掲載に際して書き直しました。

レッスンの予定はこちらに。