公開日:2005/8/25
最終更新日:2011/7/31
はじめに
アレクサンダー・テクニックのレッスンでは、通常ある指示を行う。通常それは頸からあるいは 頭からだ。
これにはちゃんと理由がある。通常あげられる理由は次の通りだ。
- 人間も含め動物は頭がリードし、身体がついてくるから。
- なにかの刺激を受けると、人は頭を胴体のほうに引っ込める(頸を縮める)傾向があるから。
- 首の筋肉の胸鎖乳突筋と僧帽筋は、第11脳神経(副神経)の支配をうけるが、副神経は迷走神経腹側肢(他の人といっしょに働いたり、表現活動をしたりするときに、中心的な役割を果たす)と同期しやすいから。
しかし状況によっては、あるいは教える人によっては、アレクサンダーテクニークを教えるときに、足から頭のほうに順番に指示を出すことがある。
アレクサンダーテクニークの教師トレーニング中に最初の経験
最初の経験は、1999年、アレクサンダーテクニークの教師トレーニングを受けていたときのことだ。
いつものように2人1組で組んで、言葉のみのアレクサンダーテクニークのレッスンをお互いに行う練習をしていた。
これは当時まだ教える ときに手を置くことをディレクターの先生から許可されていなかったからなのだが、実は私は この時間が退屈で、退屈で仕方がなかった。
なぜかと言うと、なんにもよいことが起こらないのだ。 お互いに有益なことを言っているとは思えなかったし。。。(このときの練習は、 後年教え始めてから、ひじょうに役立ったのだが、当時はそんなことが起ころうとは 夢にも思っていなかった。)
前置きが長くなったが、私はこの日ふだん無口なYSさんという方と組んだ。彼女は非常に 賢そうな目で私を一瞥してから、私に言葉の指示を出し始めた。
「足が地面に広がっていって、膝が足首から離れていって、骨盤が膝から離れていって、 胴体が長く大きく膨らんでいって、頭が胴体から離れていく。。。」確かこんな指示だった。
私は、一瞬びっくりしたが、とたんに身体が上と下に大きく広がって、まるで熟練した 教師から手を使ったレッスンを受けているようになったのだ。とても驚いた。
どうしてそんなことを思いついたのか、聞いてみたけど、彼女は教えてくれなかった。 むだなおしゃべりはしない人だった。
もしかしたら、アレクサンダーテクニーク代表的な5つのディレクションを後ろから訳し直したものをご自分で工夫されたのかもしれない。
それが最初の体験。
私は2003年12月に教師養成コースを終えた。
残念ながら、YSさんは、非常に教える才能のある方だったがトレーニングを途中でやめれた(彼女が教えていたら、私は教えていなかったもしれないと当時思ったものだ。まったくかなわないから)。
YSさんはその後オランダでアレクサンダーテクニークの教師養成コースを終えて、オランダで教えている。2022年8月3日追記
アレクサンダーテクニークのベテラン教師ウィリアム・コナブル博士からもたらされた情報
2003年に足から行う手順が行われることがあると、アレクサンダーテクニークのベテラン教師ウィリアム・ コナブル博士から教えていただいた。彼はボディマッピングの発見者でもある。
コナブル博士によると、ウォルター・カリントンの教師養成コース出身のクリス・スティーブンスというイギリスのアレクサンダーテクニークの教師が 初めて足から行う手順を公開したそうだ。
そこで、私は彼のアレクサンダーテクニークの本を読んだ。しかしその本には足から行う手順については、なにも書かれて いなかった。
2004年のアレクサンダーテクニークのオックスフォード・コングレスにて
2004年8月私はインターナショナル・コングレス(アレクサンダーの国際会議)に 出席するためにオックスフォードへ行った。少し前にクリス・スティーブンスさんはなくなられたことが、私には非常に残念だった。彼に直接どうしてそういうことを考案し、そして公開したのか尋ねたかったのだ(実は前の年にアポイントを取っていたのだが、彼が亡くなったのでお会いすることができなかった)。
ところがコングレスへ行くと、足や脚に関する講座が5から6は行われていて、そのうちの1つには出席したが、とにかく足への関心が高まっているのが分かった。
私はコングレスの期間中、夜な夜な初対面のアレクサンダーテクニックの教師たちと 飲み歩いたが、たまたま同じテーブルを囲んだ人が、以前クリス・スティーブンスの クラスに数回出たことがある方で、彼の話は興味深かった。
「私はいつもは頸から始まる一連の指示を自分自身にも生徒さんにも出すんだ。 でも、その生徒さんにとって全くうまくいかないときには、足首から、あるいは 手首から指示を出すんだ」
私自身も、アレクサンダーテクニークのレッスンがうまくいかないときは、足から行って何度もうまく行った ことがある。最近は頭・頸から行っても、たいていはうまくいくので、足から 行うことは減ったのだが。
別の夜に、イギリスに訓練に来ているイタリア人の元水道配管工の男性と道路で話した。彼は語った。
「ずうっと、頸からの一連の手順でレッスンを受けてきた。そして、私自身も その手順でレッスンの練習をしていて、いつもとてもうまくいっている。 でも、実は本当は信じていないんだ。アレクサンダーテクニーク教師になったら、1回習ったことを 全部捨てて、新しいやり方を考えて実験したいんだ」
そして私に尋ねた
「ひろひこはどう思う?」
私は答えた。
「以前は、特に教師トレーニングの修了までの1年間とその後の半年間私もよく足から教える手順を行っていた。当時は首や頭からと言うのは納得がいかなかったし、実際私のレッスンはとてもよかったんだ。もっともそういうレッスンをしていたから卒業が延びたのだけれど。
でもね、ここ1年くらいは、首から行っても同じだと思うようになった。腑(ふ)に落ちたんだ。なぜかはうまく説明できない」
アレクサンダーテクニーク教師かわかみひろひこの現在と足から行う手順
その後2005年の初め頃に、ある生徒さんがいらした。その方は足のアーチをつぶして膝を内側に押し下げている方だった。
首・頭からの手順では久しぶりに非常にてこずったので、その方とのレッスンでは、いっしょに足のアーチを探求することにした。
そして股関節・膝関節・足関節の場所の勘違いをなくすお手伝いをした。
それは私にとっても再発見につながったが、それたの探求を含むレッスンを通して、その方は自分自身の「からだ」が自然に上に向かうことを学ばれた。
そのプロセスの中で、私は足と脚のボディマッピングとその自習の手順を得た。
今でもこの方法は、必要に応じて、アレクサンダーテクニークの生徒さんにお伝えしている。
その手順の一部は、アレクサンダーテクニークの原理を生かして書いた『実力が120%発揮できる!緊張しないからだ作りワークブック』(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)に掲載しました。
コラムの目次はこちらに。
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