インヒビション

なにかをしようとするときの習慣的な癖くせ)をやめるという意味。訳語は「インヒビション」あるいは「抑制」 あるいは「ちょっと待つ」

 

私自身は、「私自身に”少し”余裕を与える」と個人的には訳すこともある。

 

活動するには、筋肉が緊張する必要があり、そのためには神経が興奮する必要があるが、同時に拮抗筋は弛緩する必要があることが多く、そちらは抑制(インヒビション)する必要がある。動きの切り替わりが瞬時に行われるときにも、神経や抑制と興奮を瞬時に適切に行う必要がある。

 

アレクサンダーテクニークのインヒビションは、この意味での生理学的な抑制(インヒビション)をヒントにしている(他にも、生理学的な抑制には、”機能を制限する”という別の意味がある)。それが転じて、アレクサンダーテクニークでは「何かをするときに少し待つ」「なにかをする前に少し余裕与える」という意味でも使われるようになった。

 

 

実際の日常でアレクサンダーテクニークを実践する際には、活動する前に、インヒビション –> ディレクション という手順になる。

 

イギリス人のアレクサンダー教師の冗談に、「電車に乗るときにインヒビションしすぎると電車に乗れない」 というジョークがあるのだが、これは陥りがちな誤り(動きの流れを止めてフリーズすること)を戒めたもの。

このジョーク、私には何が面白いのかさっぱり分からなかったが、別に笑わせるのが目的ではなく、例えば自分のからだのすみずみにまで注意を向けるつもりになって、実際には固まっているのに本人は気づいていないということが、アレクサンダーテクニークの初学者にはありがちで、それを戒めている。

 

他にも初学者の犯しがちな誤りは、まったく”待たない”というのもある。必要なプロセスをすっとばして、目標に突進していく、アレクサンダー用語でいうところのエンドゲイナーの生徒さんに対して、アレクサンダーテクニーク教師は、実際に行為として待ってもらい、行為と行為の目的達成のための新しいアイディアが入る余地を作らなければならないことがある。

 

この用語インヒビションをF.M.アレクサンダーが採用したのは、脳神経学者のシェリントン(後にノーベル医学・生理学賞を受賞)からのアドバイスがあったからであると言われている。1973年のニコーラス・ティンバーゲンのノーベル医学・生理学賞受賞記念講演に述べられているとおり、シェリントン卿は、アレクサンダーテクニークの発見者F.M.アレクサンダーの生徒で、支援者のひとりであった。

 

 

同義語:allow time to say no
Walter Carrington ウォルター・カリントンによる「インヒビション」の言い換えの一例。 [癖に]ノーという時間(空間という意味もある)を許す。

 

同義語:I have time.
Patrick Macdonald パトリック・マクドナルドによる「インヒビション」の言い換えの一例。 私には時間があるわ♪(俺には時間があるぜ!)

 

マージョリー・バーストウは、インヒビションに関する生徒の質問に対して、”例えば、右に行けば左に行けない”と答えたと言われる。

気づきがあって、ディレクションがはっきりしていれば、自ずとインヒビションはそこにあるという考えだったと思われる。

また、活動や行為の流れを遮って止まる、あるいは固まるのは、アレクサンダーテクニークのインヒビションではないと、特にすでにアレクサンダーテクニークの教師になった後で、彼女の生徒になった方たちに向けてのアドバイスであったのだろう。

しかし、これだけ聞いても、なんのことなのか多くの方は理解しないだろう。

 

 

用法としては、何かをしようとした瞬間に、ちょっと待って(インヒビション)、そして方向を与える(ダイレクション)。
何かをしようとする瞬間は、癖(くせ)が忍び寄る瞬間でもある。
この瞬間をF.M.アレクサンダーはcritical moment「決定的瞬間」と呼んだ。その決定的瞬間は、私たちの活動の質を選択できる瞬間である(あくまでも可能性だが)。
アレクサンダー・テクニークはその活動の質を選択する可能性を高めるのに役立つ。

 

アレクサンダー・テクニーク以外で類似する概念

アレクサンダーテクニーク以外で、インヒビションと類似する概念の例を挙げる。

  • 社会心理学者ポ-ル・コービィセキュア・ベースという概念
  • ティモシー・ガルウェイインナー・ゲームセルフ1セルフ2へのダメだしを沈静化することによって、セルフ2のもつ潜在的な学習能力創造力がのびのびと機能する(wikipedia http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A0を参照)という考え方。
  • ソマティック・エクスペリエンスの”コンテイナー”という概念に影響を与える。
    ※ ソマティック・エクスペリエンスの創始者ピーター・リヴァインの著書の冒頭には、アレクサンダーテクニークのレッスンを受けていた2人の科学者シェリントンとニコーラス・ティンバーゲンのふたりに謝辞が捧げられているので、間違いないものと思われる。
  • 宮本武蔵の”五輪書”水之巻「たけくらべといふこと」、火之巻「新たになるということ」
    ※ 兵法二天一流の創始者で、絵師としても一流であった。日本の生んだプラグマティストで、ルネッサンス人、詳細はこちらを参照ください。
  • ヴィパッサナー瞑想

 

 

私見ではあるが、インヒビションとディレクションの2つが明確に揃っていて、体系化されているのは、公開された文献を見る限り、アレクサンダーテクニークと”五輪書”だけである。

リンク

アレクサンダーテクニークの7つの原理

こちらも参照ください。

コラム アレクサンダーテクニークのインヒビションとは準備しすぎる=固まることではない

こちらもご参照ください。

 

最終更新日 2019年12月19日

筆者 かわかみ ひろひこ

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