アレクサンダーテクニークの話題から離れて、トルーシュ亜紀子さんのフォーカルジストニアのお茶会へ
2015年9月12日(土)、アレクサンダーテクニーク教師かわかみひろひこは、トルーシュ亜紀子さん主催のフォーカル・ジストニアのお茶会に行きました。
フォーカルジストニアの方とアレクサンダーテクニークやディスポキネーシスなどのソマティック・エデュケーション系の指導者の方たちがいらっしゃいました。
トルーシュさんとはそれまで何度かお会いし、ものすごく短く彼女の体験談を聞いたことはあったのですが、ゆっくりと聞いたのは初めてでした。とても興味深いお話でしたので、トルーシュさんからご許可をいただきまして、アレクサンダーテクニークの学校のホームページにシェアリングします。
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突然始まったフォーカルジストニアの症状
トルーシュさんの場合はフォーカルジストニアの進行が速く、ピアノの演奏のときだけでなく、日常生活にも支障が出るようになりました。これを汎化(はんか)と言います。
例えば、お箸に触ろうとしただけでも、まるで熱いものに触れたときのように、指が丸まって、手と腕を後ろに引っ込めるようになってしまいました。(熱いと感じるわけではない)。
病院でもなかなか原因がわかりませんでした。ようやくフォーカルジストニアの診断がついて、これで治してもらえると安心しました。ところが、お医者様の言う通りに投薬治療を受けても副作用が強いだけで効果がありませんでした。
フォーカルジストニアは感覚と運動の不一致!?
「私の感覚と運動に不一致が起きている」
この考察がトルーシュさんのその後のリハビリの基本になりました。
ゆっくりと動いて、ものに触れる練習を始めました。
触れるときに、徐々に圧を強くする。
同時に観察を続ける。
こういう練習をすると、たいていの方は「からだ」の内側を見るような目つきになります。そうすると、からだが下に押しつぶされ始め、うまくいかなくなるのですが、トルーシュさんがそのような失敗に陥らなかったのは、個人的には驚異的です。
もしかしたら、幼少期に剣道をしていらしたことが関係しているのかもしれません。剣道では遠山の目付を指導しますから。
トルーシュさんはフォーカルジストニアからの回復のお手伝いをされているので、フォーカルジストニアになった方とお会いする機会が多いそうです。
たいていの方たちが、右手が全部調子が悪いとおっしゃるのですが、実際にはそういうことは稀で、自分自身の観察を怠っているから分からないだけです。と彼女は言います。
では、トルーシュさんがどのように観察したかというと、ゆっくりとなにかに触れてゆきます。
このゆっくりと何かに触れて行く動きを観察する中で、皮膚から内側にあたかも、いくつもの層があって、弱く触れたときには浅い層が、より強く触れたときにはより深い層が刺激されるらしい(トルーシュさんの作業仮説)。
繰り返し、より安全な層への刺激に対する反応を確認するなかで、反応が過敏にならないことをより確実にして行き、徐々に閾値を上げていく(より速く触れる。より圧を高める〉
そのようにしていくなかで、どこの指にどのような問題があるのか発見してゆきました。そして、徐々に日常生活においては問題なく指や手や腕が問題なく動くところまで回復しました。
ところが、いざピアノに向かうと、指が巻き込んでしまう。。。
ここでもトルーシュさんはクリエイティブにワークを生み出します。
あたかもピアノではないものに触れるときのように触れてみる。例えば、腕を投げ出すようにしてふれるなど。実際にどうやったのか実演してくださいました。その方法は、トルーシュさんの講座で教えてもらってください。
徐々に閾値を高めていきます。つまり、その動きはピアノを演奏するときのようになっていきます。
しかし、同じような動作であっても、概念を新たに組み上げて行き、従来とは別の意味を持つ動きになって行きました。
トルーシュさんの歩まれた過程は、アレクサンダー・テクニークの発見者F.M.アレクサンダー(1869-1955)のuse of the selfに書かれている喉頭を押し下げない発声を身につけていく過程の記述に通じるところがあります。
アレクサンダーテクニークの発見者F.M.アレクサンダーの場合
アレクサンダーテクニークの発見者F.M.アレクサンダー(1869-1955)の場合は、ワークの基本に自己に余裕を与えること、あるいは気持ちが乱れたときにその乱れをやめることーーーインヒビションを基本にしました。だからこそ彼は自分自身の舞台で声が出なくなる課題を解決でき、それだけでなく多くの課題を持った方たちを指導でき、そしてそれらの方たちを指導する人たちを育てました。
トルーシュさんがクリエイティビティ(私の言葉に置き換えると遊び心)を失わなかったのも、なにかそれに近いものがあったように思います。
それは彼女の生来の明るさかもしれないし、聡明さかもしれないし、独特のおしゃれのセンスとか(パリにいそうなモデルさんみたいにおしゃれさんなんですよ)、生活や音楽全般に及ぶ哲学!?、世界観のようなものかもしれません。
この考えお話ししたところ、トルーシュさんから
「とんでもありません。失敗ばっかりしておりました。でも失敗しているときはうまく行かないし、成功して弾きたいという執念が私の無意識の中で色々な経験や本来人間が持っている調整能力などが調理され、色々な発見に結びついていったのかもしれません。」
というお返事がありました。
彼女が人間の持っている調整能力を引き出したのはまちがいありませんね。
そして、今トルーシュさんはピアノを演奏することができます。
しかも、フォーカル・ジストニアになる以前よりも速く弾けるし、フォーカル・ジストニア発症前よりも何倍も弾きやすくなったそうです。
最後に、トルーシュさんからいただきましたメッセージを引用させていただきます。
***** ココカラ ***
以前より速くひけるし、ピアノはジストニア発症前よりも何倍も弾きやすくなりました。
課題として残っているのは、ジストニアを克服してから大きな本番の回数をたくさんこなしているわけではないので、本番での体調がまだ100%読めないということが一つ。
あと、今度はピアノ演奏と全くかけ離れている動作と感覚にまだ違和感が残っている感じがあります。(例えばロッカーについているようなダイアルをくるくる回す、コインを素早く卓上から拾うなど)ピアノを弾くという感覚と動作はリハビリで集中的にワークしてきましたが、ダイヤルを回したりコインを拾うこともピアノの練習のようにそちらの感覚にも同じように気を向けてワークすればいいのですが、支障はないので、自分の研究を残していくという意味でも、そのままにしています。
逆にいえば、ワークをしていったピアノ演奏に支障はなくなったけど、目を向けなかった他の動作、感覚に違和感が残るということ自体も、ジストニアを解き明かす鍵ではないかと思っています。
フォーカルジストニアを患った音楽家の奮闘は何かと孤独であり、キャリアの中断に付け加え精神的、経済的ダメージを多大に受け、アイデンティティーさえも脅かされる思いをする方も多いのですが、実際は命に支障がない分一般の方にも理解されにくい問題だと考えております。
治療法やリハビリ法が確立されていない、改善の予測がつかない、心や経済面のサポートも限られていて、悩みを打ち明けられる環境がないなどの問題点の解決に音楽家を主体としたコミュニティーとして一歩でも近づくことができたらという発想のもと、「音楽家のフォーカルジストニア克服プロジェト」を立ち上げました。
私一人や、皆様一人一人の知識や経験ではなく、ネットワークとして融合したものが問題の解決につながると確信しております。
*** ココマデ ***
とても素敵なお話を聞きました。私自身のアレクサンダーテクニークのワークにヒントもいただきました。トルーシュ亜希子さん、どうもありがとうございます。
アレクサンダーテクニーク教師かわかみひろひこのレッスンの勧め
アレクサンダーテクニーク教師かわかみひろひこは、フォーカルジストニアの方たちのレッスンも独自に噴くうしてまいりました。
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