更新日 2015年4月4日

1.はじめに

実は2012年から人間の生理に働きかける、トラウマ解消画期的な効果があると言われている※1ソマティック・エクスペリエンスソマティック・エクスペリエンシング)のプラクティショナーのトレーニングを受け始めました。

 

理由はいろいろありますが、
3.11が起こって、私も何度か現地にボランティアに参りましたが、これから人々の震災後に落ち着きを取り戻すなかで、必要にいなっていくだろうと感じましたし、

 

私のレッスンには、どういう訳か分かりませんが、教え始めた当初から、統合失調症や欝(うつ)や双極性障害自律神経失調症の方がいらしていたということ理由のひとつです(それで心理系のお講座にもいろいろ通いました。なかでも吉本武史先生の催眠療法のお講座は素晴らしかったです)、

 

そして、フォーカルジストニア職業性ジストニア局所性ジストニア)の方たちへの有効な対処方法が学べるのではないかと考えたのです。

 

そして、2015年3月にソマティック・エクスペリエンシングのトレーニングを終えて思ったことは、表現者(音楽家や俳優やダンサー)たちが舞台で緊張しすぎたり、上がったり、あるいはそうでない方たちが自己紹介で上がったりということがありますが、こういった課題の解決にも役立つことが分かりました(2015年4月4日追記)。

 

いっしょにトレーニングを受けている人たちの半分以上は、臨床心理士さんたちで、他にもお医者さんや看護師さんやコーチングの方やヒーラーさんがいらっしゃり、私のようなソマティック・エデュケーション※2(身体教育、心身教育、心身相関教育)に関わっている人たちもいます。

 

現在はトレーニングのやっと半分が終わったところですが、ここまで学んできて、大きな収穫は、アレクサンダーテクニークと効果的に組み合わせることによって、舞台の本番での緊張※3の解決にかなりの効果があることが分かったことです(このレッスンは個人レッスンでのみ行います)。

 

そして、ソマティック・エクスペリエンスを学んで、改めてアレクサンダーテクニークの優れているところを再発見できたことも大きかったです。

 

2.アレクサンダーテクニークの優れたところ—ソマティック・エクスペリエンシングを学んで分かったこと

生理的エネルギーの緩やかなディスチャージと神経システムのペースラインの沈静化

 

アレクサンダーテクニークでは、「からだ」の外側で起きていることに注意を向けながら、同時に「からだ」の内側に起きることに注意を向けることを勧めている(アレクサンダー用語で、unified field of attentionと言う)。

 

アレクサンダーテクニークでは、特別な目的がある場合を除いて、生徒さんが目をつぶってレッスンを受けることはない。

 

これによって、ソマティック・エクスペリエンシングでいうところの、ペンデュレーション(トラウマの渦と逆向きの渦を行ったり来たり)とディスチャージ(活性化した交感神経が穏やかになる時に起こる、生理的なエネルギーを放出する現象)がソマティック・エクスペリエンスよりも非常に緩やかに起こり、神経システムのベースラインの過度な活性化が収まる。

 

定位反応

アレクサンダーテクニークを実践している時には、 「からだ」の外側に注意を払うので、 環境空間内に起こる変化に敏感になり、定位反応※3が起こりやすい。それによって、突発的な刺激に対して、柔軟に反応しやすくなります。

能力が発揮しやすくなる、人に安心感を与える

トラウマを抱えた状態は、神経システムが過度に活性化している状態ですが、その状態からトラウマの影響の少ない状態になるときには、デイスチャージ(生理的なエネルギーの放出)が必要になります。安心感と心地よさを感じないと、ディスチャージは起こりません。そのためには、カウンセラーは安全な場を作る必要になりますが、
その場をことをソマティック・エクスペリエンシングでは、コンテナーと呼びます。

アレクサンダーテクニークのunified field of attention注意の統一された場と類似した概念ですが、アレクサンダーテクニークの場合は、レッスンと日常との実践を通じて、生徒さんご自身が他の人たちに安心感心地よさを与えたり、表現に説得力のある存在感(オーラ)を持つようになったりと、その応用範囲が広く、またアレクサンダー教師の力量にもよりますが、その方法が「からだ」-身体を通じた具体的なメソードして確立されています。

感覚のトラッキング

パリの認知科学の研究機関で働いている、アレクサンダーテクニーク教師のレイチェル・ザーンは、アレクサンダーテクニークのレッスンにおいて、生徒は自分自身の活動の経験(一人称の経験)に関してプロになり、そしてアレクサンダーテクニーク教師は、さらに生徒さんの経験(二人称の経験)についてのプロになるという言い方をします。

背側迷走神経の解放

恩師ウィリアム・コナブル博士の言葉を借りれば、アレクサンダーテクニークは、人間の神経システムに働きかけるワークですが、頭部と脊椎とのあいだの繊細な動きについても、アレクサンダーテクニークで重視します。

これは、その領域を担当している背側迷走神経(副交感神経の1種)のベースラインを適度に保つことを重視しているということであり、トラウマによって凍りつき(例えば舞台の本番でまったく緊張しない、体温が下がるなど)が起こるなどの精神的・生理的な問題のある状態を防止する、あるいは解消していく効果が期待でします。

 

なお、自律神経の副交感神経を、背側迷走神経・腹側迷走神経とその他に分類するのは、伝統的な医学・生理学の分類方法ではありません。スティーブン・ポージェスによって、提唱されている多重迷走神経理論(ポリ・ヴェーガル理論)に基づく分類です(2015年4月4日追記)。

 

腹側迷走神経の解放

「ひろひこ、微笑みなさい」F.M.アレクサンダー(1869-1955)の直弟子エリザベス・ウォーカーさん(-2013)との数回の個人レッスンで、何度も言われたことが思い出されます。

アレクサンダーテクニークのレッスンでは”微笑むこと”をとても重視していて、レッスンではそのために安全なスペースを作りますし、生徒さんご自身がそれを作ることができるように教えます。

ペドロさんの「音楽家のためのアレクサンダーテクニーク入門」でハンズ・オン・バック・オブ・ザ・チェアーをする写真モデルの方が、とても素敵な微笑みをしている写真をご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんね。

微笑みは社会性の表れであり、腹側迷走神経(副交感神経の一種)がより適切に働いていることを意味します。

腹側側迷走神経は、哺乳類に発達した神経で、社会性を司ります。哺乳類は生き生きと活動する際に、交感神経(逃げるか戦うかを司る神経)を主体として使わなくても、腹側側迷走神経を発達させることによって、エネルギッシュに活動できるようになりました(SEのアシスタントとしていらしていた、ロルファーの平田 継夫さんからのご教示を参考にして、2015年4月4日追記)。

 

3.結び

ソマティック・エクスペリエンシングのトレーニングを受けて、アレクサンダーテクニークのよさがますます分かったことと、最新の脳神経科学でアレクサンダーテクニークの諸原理を説明できるようになったこと、そして自分自身が改めてアレクサンダーテクニークとはどういうもので、どのように生徒さんにお伝えしたらよいのかを見直すきっかけができました。

出会いに感謝しております。

 

 

ソマティック・エクスペリエンスについては、こちらをご参照くださいませ。

 

※1 「脳の中の身体地図―ボディ・マップのおかげで、たいていのことがうまくいくわけ」

サンドラマシューブレイクスリー (著), インターシフト刊に、身体の(生理的な)エネルギーを扱うので、セラピーによりトラウマを引き起こしにくいし、トラウマの解消に画期的な効果があると紹介された。

※2 ソマティック・エデュケーション

身体教育、心身教育。「こころ」と「からだ」をひとつのものとして捉え、その一体となった心身に働きかけるワーク。

アレクサンダーテクニーク、ディスポキネーシス、フェルデンクライス・メソード、ロルフィングなど。

※3 定位反応
もともとは、「環境空間内で動物が,能動的に,体軸が一定の方向に向くように体の位置をきめることで,光や音波や重力,あるいは一定の濃度こう配をもった化学刺激などが手がかりとなって起こる。突然の新奇な刺激が与えられたときに,動物がすばやく頭と目をその刺激源に向けることを定位反応という」(コトバンクhttp://kotobank.jp/word/%E5%AE%9A%E4%BD%8D%E5%8F%8D%E5%BF%9C)

生体は,その外部に何らかの刺激が呈示されると,そちらの方向に注意?を向けるような行動をとる。このような反応?を定位反応または定位反射?(orienting_ reflex)とよぶ。

パヴロフが条件反射の形成時に新規刺激を与えられたイヌがそちらに注意を移してしまう現象に対して名づけたとされる。日本では最初は,「おや何だ反射」と言われていたという。なお,この反応は,個体外部の刺激の取り込みを促進するという適応的な機能を有しているとされる。元の言葉(「反射」)からわかるように,生体に生じる反応は行動指標に限らず,呼吸や心拍,眼瞼運動など生理的な指標もその中に含まれる(福祉心理学用語集 yuki wiki http://www.ipc.hokusei.ac.jp/~z00105/wiki/wiki.cgi?%C4%EA%B0%CC%C8%BF%B1%FE))

 

 

 

コラムの目次はこちらに。