私は2003年以来、演奏家の方たちにアレクサンダーテクニークとボディマッピングを教えていますが、思いのほか多くの方たちが呼吸の仕組みについてご存じないことに予てから驚愕しておりました。特に管楽器奏者や声楽家の方たちがほとんどご存じではなく、音大や教育学部の音楽専修の授業でも学ばないそうなので、こちらに簡単にまとめることにいたしました。

横隔膜-横から

横隔膜-横から

左図は、横から見た横隔膜です。横隔膜は、筋肉のドーム上々の構造で、筋肉は背骨の一部の腰椎の前の方と、胸骨(肋骨の止まっている骨)の後ろの方と、下の方の肋骨についています。

ドームの上の方は、アキレス腱と同じく腱になっていて(腱中心という)、伸びも縮みもしません。

 

息を吸うときには、横隔膜は収縮(緊張)します。

さて、クイズです。息を吸ったときに、横隔膜のいちばん上の腱中心はどこまで降りるでしょうか?

たいていの方たちがおへそや胸骨よりも下のあたりを指さします。

しかし、実際には胸骨の下よりもぜったいに下に降りることはありませんし、凹型にへこむこともありません。ドームが低くなるだけです。

 

 

さて、2番目のクイズです。息を吸うときには、一生懸命吸い込んだ結果、肺が膨らむのか、それとも肺が膨らんだ結果息が入るのでしょうか? 答えは後ほど

 

そして、ある程度まで腱中心が低くなると、それ以上は腱中心は下に下がりません。しかし、まだ横隔膜の筋肉部分が収縮(緊張)し続けると、下の方の肋骨が、持ち上げられます。

そして、もしこのとき上の方の肋骨が静止していたら、下の方の肋骨が上の方の肋骨にぶつかって痛くなります。しかし、うまくできていて、下の方の肋骨が上に上がるときに、上の方の肋骨も外肋間筋が収縮することによって、持ち上げられます。

 

胸郭を下げる筋肉と胸郭を広げる筋肉 原図 三木成夫 「生命形態学除雪」を改変

胸郭を下げる筋肉と胸郭を広げる筋肉
原図 三木成夫 「生命形態学除雪」を改変

 

そればかりでなく、上図の向かって右側の胸郭拡張する筋肉が収縮(緊張)します。
それによって、胸郭は拡張され、内部の肺も拡張します。

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外肋間筋

大胸筋腹部 肋骨から上腕骨(二の腕の骨)につく

小胸筋 肋骨から肩甲骨の烏口突起につく

三角筋 鎖骨肩甲骨から上腕骨につく

斜角筋 頚骨(首の骨)の横突起から第1肋骨・第2肋骨につく

僧帽筋 

胸鎖乳突筋 乳様突起から胸骨鎖骨につく

骨格的に腕に当たるものを青字にした。

アレクサンダー・テクニークのベテランの教師で、ボディマッピングの発見者ウィリアムコナブル博士(ビルさん)によると、骨格的に胸骨は腕の一部です。

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拡張した結果、肺内部の空気は急速に薄くなり。気圧が下がり、身体の外の気圧よりも肺の内部の気圧が著しく低くなるので、空気が身体の外から気道を通って肺に入ってきます。

 

したがって、先ほどのクイズの答えは、肺が膨らむから空気が入るが正解でした。そして胸郭が持ち上がるときというのは、肋骨や胸骨や鎖骨や若干二の腕の骨が持ち上がります。そのとき外部から観察できるのは、首の両脇の肩周辺や、胴体の正面、背中側、胴体の側面も外側に向かって広がることです。

もしこの呼吸の自然な動きを制限すると、腕の動きや、胴体のサポート全体が阻害されます。これについては別のコラム「管楽器奏者&声楽家の呼吸」を用意します。

 

息を吐くときには、吸うときに収縮していた筋肉たちが弛緩して(緩んで)、左図の左側の胸郭を下げる筋肉が収縮して、多くの二酸化炭素を含んだ空気が肺から出てゆきます(ここまで三木成夫 著  125-127ページ「生命形態学序説」を参照した)。

 

 

以上の呼吸の説明は、通常の呼吸についてです。

管楽器奏者や声楽家の呼吸は、音が出るときに、つまり息を吐くときに、通常の呼吸と異なる働きをします。これについては別のコラム「管楽器奏者&声楽家の呼吸」を用意します。

 

 

 

コラム 管楽器奏者の楽器が重いという課題と、呼吸がしにくい、息が吸いにくいという課題を一挙に解決する はこちらへ。

演奏するときの呼吸については、別にコラムを設けます。

また呼吸によって、頭から足まで動きが起こりますが、それについても別コラムにて。

表情筋(系統発生学的には鰓の呼吸筋起源)と呼吸との非常識な関係についても、別コラムにて。

 

参考文献

生命形態学序説」三木成夫 著 うぶすな書院 125-127ページ

本文の挿絵は、外肋間筋と内肋間筋を反対に描いているという誤りがある。同様の誤りは、「原色現代科学大辞典 6 人間」三木成夫担当部分の挿絵にもあるが、「生命形態学序説」の巻末に収録されている三木成夫シェーマ原図には、正しい図解が掲載されているので、少なくとも「生命形態学序説」本文の挿絵の誤りは、校閲上の誤りと考えられる(初版の出版年の1992年当時、三木成夫先生はお亡くなりになっているため)。

今回三木成夫先生の原図と解剖学の本を見比べながら、筋肉がどこからどこについているのか、改めて学ぶことができたのは、貴重な体験でした。本文には書かれていない斜角筋が図解では描かれています。あやうく見逃すところでした。三木先生は文章も素敵ですが、図で語る方です。