2012年4月から来年の2月にかけて、日本フルート協会会報(隔月刊)に、フルート奏者 大久保はるかさんが、アレクサンダー・テクニークのレッスンレポートを連載されています。

 

2013年2月号が連載の最終号になりますが、最後の号は対談になります。大久保さんが私に質問し、私が答えるという形式になります。

 

2012年12月17日(月)のグループレッスンの後に、そのための対談を行いましたが、特に最後から2番目の質問が面白かったです。
すべての質問はこちらです。

 

Q6.私がアレクサンダーテクニークを学んでいるという話をすると、よく人に聞かれることがあります。「フルート奏者ではない方が、何故フルート演奏時の姿勢やブレスのことなどについてのアドバイスが出来るのでしょうか」という質問です。

 

これは私にはない視点でした。いや、かつてはあったな。忘れていた。

あまりに面白いので、ちょっとこちらに書いてみようと思います。

 

アレクサンダー・テクニークのレッスンに今日アクティビティ・レッスンと言われるものがあります。

 

通常アレクサンダー・テクニークのレッスンでは、レッスンで行うことは教師が選びますが、アクティビティ・レッスンでは生徒さんが選びます。

 

そして楽器の演奏、踊り、タイマッセージのセッション、発声等生徒さんが選んだアクティビティに手と言葉を使ってレッスンを行います。

 

この形式のレッスンは、アレクサンダー教師によって、行う教師もいるし、行わない教師もします(そして、どちらの教師にも優れた教師もいますし、そうではない教師もいます)。

 

生徒さんが選んだアクティビティのレッスンを行う教師は、F.M.アレクサンダー(1869-1955)の弟子のマージョリー・バーストウの弟子や更にその弟子たちの系統の教師だけだという人もいますが、誤りです。

オックスフォードに健在のF.M.アレクサンダーの直弟子、エリザベス・ウォーカーさんも、生徒さんが選んだアクティビティのレッスンをされます。私自身が彼女から、”歌をうたう” ”鉛筆で字を書く”ことについてレッスンを受けました。とてもワクワクするレッスンでした。
またカーリントン系のヴィヴィアン・マッキーさんも、生徒さんが選んだアクティビティについてレッスンされます。

 

また生徒さんの選んだアクティビティのレッスンをすると称する人たちの中にも、実際にはかなり不得手にしている人もいて、生徒さんが「トランペットを吹きたい」と言って、楽器ケースから楽器を取り出そうとしたら、そこで止められて、以降の複数回にわたるレッスンでは”楽器ケースの前でしゃがむことしかせず、ついにトランペットに触れることすらできなかった”という不満を聞くこともあります。

 

笑い話のように聞こえるかもしれませんが(生徒さんにとっては、笑い事ではありませんね?)、これは全然珍しい話ではなくて、教師が生徒のやりたいことをやらずに、アクティビティの内容を強引に変えてしまうことはよくあることです。私自身もそういうレッスンを受けたことがあります(だいたい”的外れ”で、”重箱の隅つつき”的な”質問攻め”を伴うことが多いです)。

 

別に楽器ケースの前でスクワットするレッスンをしてはいけないと申し上げているのはないのですよ。

実際に楽器を取り出そうとするときに、ご自分自身を押しつぶされる方は多いし。

けれど、生徒さんに「なにを行うのかを選んでよいですよ」と言っておきながら、実際には生徒さんに選ばせないことには疑問を感じます。

 

そして生徒さんに選ばせても、次に問題になるのは、果たしてその教師に、生徒さんがおっしゃったアクティビティを教える力量があるかということが問題になります。

 

 

Q6に戻りますが、「フルート奏者ではない方が、何故フルート演奏時の姿勢やブレスのことなどについてのアドバイスが出来るのでしょうか」という質問は、必ずしもすべてのアレクサンダー教師が演奏するときの姿勢や呼吸について、適切なアドバイスができる訳ではないということになります。

 

そもそも、生徒さんの選ぶアクティビティのレッスンをしない教師もいます。

 

「なぜアレクサンダー教師は。。。できるか」ではなくて、生徒さんが選んだアクティビティについて、「適切なアドバイスができる教師もいて、ではその方たちはどうして。。。できるか?」と言い換えたほうがよいのかもしれません。

 

そして、その質問をされた私自身が、果たして演奏するときの姿勢や呼吸について、適切なアドバイスができるかどうかということが当然問題になります。

 

それについては、この1年半私から個人レッスンを月に2回、グループレッスンを月に1回ご受講された大久保さんは、”アレクサンダー教師かわかみひろひこが、演奏するときの姿勢や呼吸などの生徒さんが選んだアクティビティについて、適切なアドバイスができる”ことを前提にされているようなので、一応できるという前提で回答することにしました。

 

ちなみに大久保さんは、私と出会う前の2年間、複数のアレクサンダー教師からレッスンを受けています。

 

 

教師のトレーニング中に訓練生が行うことは、第1に自分自身が活動するときに自分自身がやっているつもりのことと実際にやっていることの違いに出会い、自分自身がやりたいことをじゃまする癖(くせ)をやめていくことでした。

 

これを教師養成コースにいるあいだだけではなく、日常も行います。

 

そうすることで、自分自身の活動とその活動の質を変えることに上達していきます。言ってみれば、”1人称の経験”のプロになるわけです。

 

そして次に(実際には同時並行になりますが)、人が行う活動で、その方がやりたいことと実際に行なっていることとの違いを観察し(なにをやりたいのかを聞き出す方法も身につけ)、手と言葉を使って適切にアドバイスする方法を学びます。

 

言い換えると、レッスンルームが、なにか新しい発見が起こる”場”になるようにする方法を身に着けていくわけです。

 

そのようにして、アレクサンダー・テクニークの教師トレーニング中に、1人称的な経験と2人称的な経験のプロになるわけです。

 

もちろん他の分野のプロがそうであるように、プロにも総合的な力に差異があります。

 

なりたての教師は多くは、教えるために、そして自分自身で学ぶ続けるために、必要最低限のハードルを超えたに過ぎません。かつて私自身がそうでした。

 

私がトレーニングを終了したのは 2003年の12月。私はその2日後からグループレッスンを教え始めました。なぜなら、グループで教えること”が不得意”だったので、経験を積む必要を感じたからです。もちろん、その背景には、多くの方たちとワークを分かち合いたいという強い希みがありました。
それから1年間は、コンスタントに月に2回グループレッスンをオーガナイズして、教えました。

 

途中から某カルチャーセンターでも月に2回クラスを教え始めました(関東地方でカルチャーセンターではじめて教えたのは、ほかならぬ私です)。

 

そうしているうちに、グループレッスンを教えることについて、”苦手意識”、”不得手な感じ”はだんだんとなくなっていきました。

 

それでも、1つ悩みがありました。生徒さんが選ぶアクティビティのレッスンがまったく上手く行かないということでした。

 

上手く行かないというのは、ワークのビフォーとアフターで、例えば演奏にレッスンが与えた好影響を視覚的にも・聴覚的にも観察できないという意味です。

 

教師トレーニング中に10回実習レッスンを受けてくださったドラム奏者の方のレッスンは明らかに違いがありましたが、大勢の方が初めて参加されるグループで、生徒さんが選んだアクティビティを教えることはうまくいきませんでした。

 

生徒さんに「なにかやってみたいことはありませんか?」とは聞いてはみるものの、いつもうまく行かないので、心のなかで「何かやりたいって言わないでください」と言ってました。

それでもチャレンジは続けました。

 

2005年の12月に、カルチャーのクラスにヴァイオリンを持った方が現れました。

彼女がヴァイオリンを演奏して、その後に私が手をおいて指導しながら、ヴァイオリンを演奏していただきました。

音が立ち上がり、音の響きがさらに豊かになり、そして会場には”どよめき”が起こりました。

 

それが私の、大勢のグループで、生徒さんが選んだアクティビティのレッスンが初めてうまく行った経験です。

 

 

その後その方は、およそ2年レッスンに来てくださいました。
後で分かったのですが、そのかたはプロのオーケストラのヴァイオリン奏者で、東京芸術大学の学部と大学院の修士課程を終了された方でした(”こんにゃく”体操の野口三千三先生や、形態学の三木成夫先生の授業の様子を教えて下さいました)。

 

その方がお仲間の弦楽器奏者を中心とする演奏家の方たちを連れてきてくださり、横浜でグループを作って下さったので、私は弦楽器奏者の方たちとかなりの経験を積むことができました。実験と発見の繰り返しによる、濃密な時間を過ごしました。

 

 

同じ頃から、熱心にあるピアノ奏者の方が東京のグループレッスンいらしてくださるようになり、毎月2回行うグループに必ずいらっしゃいました。

グループといっても、2005年当時にグループにいらっしゃるのは、ほぼその方だけでした。そして、その方との実験を通じて、今日私がグループレッスンで行う、”相手を動かす遊び”や”ボディマッピングの一連の手順”を作り出すことができました。

もちろんピアノを演奏する方に教える経験も積みました(その方とは2005-2007)。

 

そしてその後に、管楽器の方たちがいらっしゃって。。。

 

 

そのようにだんだんと、アクティビティにおける癖を判別する能力を高めてゆき(演奏には何が必要で、何が必要ではないのか)、そして手と言葉を使ってアドバイスする能力を高めました。

そのようにして、楽器の演奏家でもなく、楽器の演奏についてド素人の私は、楽器を演奏する人の呼吸や姿勢etc.について、手と言葉を使ってレッスン”できる”ようになりました。

 

”できる”と書いたのは、発展途上だからです。

 

2003年1月以降のレッスンはこちらに。来年3月にかけて、東京、横浜を中心に、札幌、飯田、静岡、浜松、福岡、大牟田にも出張して、レッスンいたします。